さんじゅういちわ ページ33
「…そういやカタクリコさんって誕生いつでしたっけ？」
「…11月25日だが。お前は」
「3月3日でやんす」
「誕生日までお前が先なのか…」
「すいやせんねぇ」
無理やり話を変えたかったのは気づいたが、正直気まずいので変えられた話に乗っかる。
たかだか予想外のことを言われただけで動揺してしまうとは、全くおれらしくない。
こいつといると本当に調子が狂う。
「…さてね、そろそろ戻りやしょう。楽しかったですぜ、カタクリコさん」
「…楽しかったか」
「はい、もちろん。万国、なかなかいいところですなぁ。嫁いできて良かったですぜ」
相変わらず目は死んでいるが、口角はそこそこ上がっているので本当に楽しく思っており、本当に嫁いでよかったと思っているらしい。
…少し嬉しいのは何故だろうな。
だが、わかろうとは思わない。
きっと知ってはいけないものだ、これは。
前を歩くクレイアの後を追う。
日差しに銀髪がきらきら輝いていた。
「そうだ、カタクリコさん」
「なんだ」
くるっと体を反転させ、呼びかけるクレイアと向かい合う形で足を止める。
いつもより少しだけ深い笑みを浮かべて、少しだけ大きな声でクレイアは言った。
「私、カタクリさんのこと、結構本気で愛してやすぜ！」
「！？」
「さよならバイバイまた明日！！」
「おいこら逃げるな！…クレイア！！」
ずっと呼べなかった名前は思っていたよりするりと口から滑り出た。
名を呼んだら、気づいてはいけないものがより大きくなってしまった気がした。
そして、おれたちは城へと戻った。
しばらくクレイアはおれの方を見なかった。
おれもクレイアを見なかった。
喧嘩したか？とペロス兄に聞かれたが…まぁ、あれだ。
正直、普段しないことを一時の気の迷いでやってしまったことに対する気まずさ、そしてそれによる気恥しさがくすぶっていて、距離を置いている。
…それだけだ。
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