じゅうななわ ページ19
「く、クレイアを割れ目に落とすのか？」
「おぅ。カタクリのやつもあいつをビビらせたいみたいだしな。ちょっと驚かしてやろうと思って」
「だがあいつは何をしても驚かないからな…落とすくらいなら怪我も負わないだろうし、割れ目に落としてみようと思ったわけだ」
「でも、さすがに気付くんじゃ…」
「まぁそのときはそのときだ。あいつ、思ってたよりも注意力がねぇからな。案外簡単に落ちるかもしれねぇ」
「1日くらいならママたちも探しはしないだろう。普通の女なら怯えるはずだ。きっとカタクリも喜ぶぞ。クレイアが怯えて」
クレイアとカタクリ兄貴のあれは一種の愛情表現だとアマンドの姉貴が言っていたのだが…クレイアが驚くところはおれも見たかったので、つい止めなかった。
でもどこかで、クレイアがこっちを通らないことを願っていた。
事前に割れ目のことを知っていてくれ、と。
だが、その願いも虚しく向こう側からゆっくりクレイアが歩いてくる。
どこか疲れたような表情をして、心ここにあらずといった雰囲気をかもしていた。
…いや、さすがに気づくだろう。落ちないだろうと思っていたが。
「お、落ちたぞ！あいつほんと注意力ねぇな」
「…だが悲鳴も助けを呼ぶ声もなしだな」
「なんだよ、面白くねぇな。じゃあそのうち1人で出てくるだろーよ。行こうぜ、オーブン、クラッカー」
「あぁ」
そう言って去っていく兄貴達。
おれもついて行ったが、さすがに驚きの声すらあげないのが不思議に思えて、2人に気づかれないようにこっそり割れ目に戻ってきた。
落ちないようにゆっくりと割れ目を覗いた。
「あ、ちょうどいい所に来やしたね、クラッカーくん。ちょいと人を呼んできてくだせぇや。1人じゃあ登れなくて」
そう、いつもと変わらないのんびりした声音でおれを呼んだクレイアの顔は、血で真っ赤に染っていて。
「ぎゃあぁああああ！！！！！」
「なぜ絶叫？！」
おれはつい、絶叫してしまったのだった。
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