91 ページ42
「刀は、余裕をもってたくさん集めてある。配分も考える」
穏やかに清水さんが微笑んだ。
青い瞳が放つ光は暖かい。
「だから、大丈夫だ」
腰をあげた清水さんは、振り向いて姿勢を正した。
「ーー2人のこと、どうぞよろしくお願いします」
そうして、タソガレドキ忍者4人に向けて、深々と頭を下げた。
とても丁寧だった。
「……承知した。必ず、無事に送り届けよう」
雑渡さんの答えに、清水さんは頷いた。
風呂敷の端を掴んで持ち上げる。布から刀が滑り、川に落ちていく。
全ての刀を落とした清水さんは、風呂敷を畳んで懐に入れた。
「あかねによろしく」
引き止めようと伸ばした手は宙を掻く。
清水さんの姿が消えた。
同時に、妖の足が1本、切り落とされる。
私と伏木蔵は、慌てて崖の縁に駆け寄り下を覗き込んだ。
清水さんは水の上を縦横無尽に滑っていた。
川を跨ぐ妖の身体の下をくぐり抜け、その足先を切り裂く。
再び倒れ込んだ妖が、反対側の崖を大きく崩した。
「……なるほど。神出鬼没の絡繰はアレか」
「え」
雑渡さんの声に、そちらを振り返る。
「短期間に色々な領地を巡っている割に、城の関係者から情報が一切挙がらない。それが彼を有名にした理由だ」
「……あっ」
「舟も使わず川を道にできるなんて、羨ましいねえ」
そうか、川の上を移動できるなら忍者に見つからなかったことも納得できる。
身一つで川を、それも領地の境を超えるぐらいの長い距離を上ったり下ったりするなんて、誰も思わない。
身体の半分を水に沈めたまま、妖は口から複数の黒い糸を吐き出す。
刺突となって襲いかかったそれを、清水さんは避けなかった。
妖の周りを飛び回っていた2振りの短刀が、盾となって攻撃を防いだから。
バキンという金属音が、崖下で鳴ったその音が、妙に大きく聞こえた。
攻撃を相殺して砕けた2振り。
清水さんはあとどれだけ、刀を持ってたっけ……？
「さて、それじゃあ行こうか。園田村に」
相変わらず雑渡さんは冷静だった。
「えっ、で、でも……」
「置いて行くなんて……」
私も伏木蔵も、その先が出てこない。
だって、ここにいたって何もできないことは分かっているから。
真っ黒で巨大な蜘蛛は、完全に清水さんを標的にしたらしい。
両側の崖にかけた足に力が入り、谷底から身体が持ち上がる。
川面に立つ清水さんを見下ろして、耳をつくような高い声をあげた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「忍たま」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
kanayamamoto112(プロフ) - 水の術者の67話どのようなお話なのか凄く楽しみです。水の術者主人公君の武器は見つかったのか気になります。 (7月1日 10時) (
レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
kanayamamoto112(プロフ) - 水の術者主人公君と火の術者ヒロインちゃんの合流楽しみです。次は2人のうちどちらが登場するのか楽しみです。 (7月1日 9時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
kanayamamoto112(プロフ) - 待ってました。水の術者主人公君とタソガレドキの押都長烈さんの心理戦楽しみです。続き楽しみです。 (7月1日 1時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
kanayamamoto112(プロフ) - 続き楽しみです。 (6月30日 16時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
kanayamamoto112(プロフ) - 凄く面白いですし展開が楽しみでドキドキしてます。作者さん体調には気をつけてください。 (2023年2月5日 23時) (レス) id: 763c9aa7d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ノート角 | 作成日時：2019年11月19日 15時
