かの者、カナウ ページ33
皆不思議な顔をしながらもせっかく弁当もあるのだしと燭台切と歌仙が作った料理をつまみ始めた。
酒もたっぷりあったこともあり、賑やかになるまで時間はそう掛からなかった。
和泉は一人いつの間にか桜の木に上がり、酒を飲んでいた。
そっと幹を撫でて口を開く。
「……さぁ、貴方の願いは叶えたわ。対価は………"貴方の満開"、ね。」
その一言が風に消えた瞬間、桜は一瞬で沢山の花を咲かせた。
まるで、喜ぶように。
一期「…！これは…」
乱「わぁ、綺麗‼」
鶴丸「こいつは…ははっ、驚きだぜ」
歌仙「……やはり花見は花を愛でるからこそ花見だね。」
ひらひらと舞う花弁に皆喜んでいるようだった。
小夜は和泉を見つけ、軽々跳んで隣に立つ。下には二人の兄もいた。
小夜「……どうやったの…？」
「桜の願いを叶えたの。」
宗三「どういうことです？」
「この桜は貴方たちを案じていたわ、本丸が邪気で満ちていくし誰も姿が見えないから。…貴方たちの元気で楽しそうな姿を見ること、それが桜の願い。対価に咲いてもらったのよ。」
江雪「……桜もまた、悲しみに満ちていたのですね。」
江雪は桜の幹に触れた。大きな枝が揺れ、はらはらと花弁を降らせる。
小夜「！……すごい、綺麗」
「小夜、貴方の願いは叶ったかしら？」
小夜「…うん。…叶えてもらったから、対価……」
「貴方からの対価は……もうもらったわ。」
小夜「？なにも、あげてない」
不思議そうな小夜に、和泉は優しい眼差しを向け、目の前の小さな頬に手を添えた。
「桜を見た貴方の、嬉しそうな"笑顔"。確かにいただいたわ。」
小夜「え、僕が…笑顔…？」
自覚がなかったらしい小夜の笑顔は、他者から比べると分かりにくいかもしれない。
だが確かに桜の木が桃色に染まったその時、キラキラと輝く瞳をして笑みを浮かべていた。
兄である宗三と江雪も見ていたため、二振の表情も穏やかだった。
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作者名：時雨 | 作成日時：2019年8月30日 11時
