その者、タイカ ページ20
前任はばっと顔を上げ笑みを浮かべた。
前任「…ほ、本当か！？」
「対価を払うならね。貴方の願い、そこにある証拠を全て消してあげるわ。」
前任「…払う、この土竜のような生活から抜け出せるなら、何でも払ってやる！！」
「……何でも、なんて軽々しく言わない方がいいわ。…ま、良いでしょう。」
和泉は机の証拠の束をまとめ、丸めて手に持った。何処からともなく霧が立ち込め手元を隠してしまう。
霧が晴れると手元の束はさらさらと消えてしまった。
前任「…は、ははっ！これで自由だ！！」
「あることを守ればね。」
前任「あぁ、何をだ？」
「貴方が、"誰とも縁を結ばなければ"…これが貴方の対価。」
石切「縁を、結ばない…」
三日「…それは、」
「…そう、縁を結ばないようにするには、誰とも会ってはいけない。」
前任「…は？」
青江「縁は関わりのことだものねぇ。」
「今までの縁も、直ぐに切らなければ駄目ね、出来なければ何らかの形で不正の証拠が出てくるでしょうね。」
やっと意味が理解出来たらしく、前任は再び真っ青になった。
前任が和泉へ襲い掛かる。
前任「…そ、んなの詐欺だろう！！何が願いを叶えるだ！！」
「叶えたでしょう。対価も貴方が決めたのよ？"何でも払ってやる"って。」
和泉は前任へ綺麗な蹴りをくらわせた。
歩み寄り顎を掴み上を向かせ、冷たく見下ろす。
「貴方は自由になんてならないわ。そんなに殺して、魂がいくらあっても釣り合わないほどに歪めてしまった。……"みんな貴方を待ってる"わよ？」
………………………キャハハハハハ
……………オトウサン、コッチダヨ
前任「…あ、あ……やめろ、来るな！！」
和泉が前任から一歩下がると前任の背後から沢山の小さな手が伸び、前任の身体にまとわりつく。
青江「これは凄いね。」
三日「俺にもはっきり見えるぞ。」
石切「それだけ思いが強いんだ。これは私も払えない」
「払わなくていいのよ。これはこのヒトの"産まれるべき命を摘んだ対価"だから。……お父さんを連れて行きなさい。迎えが来るまで、待つのよ。」
小さな手の子供達に優しく話しかけ、闇に消えていく前任を見届けた。
結界を解き壁に札を貼ってランプを消し、地上に戻った。
こんのすけに連絡し、政府へ報告とこの地下室を埋めることを要請した。
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作者名：時雨 | 作成日時：2019年8月30日 11時
