その者、トビラ ページ17
審神者部屋に着くと次郎太刀は和泉をおろす。室内を見回し、その口が不満げに曲がった。
次郎「何で審神者部屋なのさー、酒なんて何処にもないじゃないかー」
「ここよ。現世に繋いだトビラがあるの。」
和泉は押し入れに近付き、襖を開けた。目の前には沢山の酒、酒、酒。
缶ビールに日本酒、缶酎ハイ、ワイン。桐箱入りの上等なウィスキーまであった。
次郎「おお！酒だ〜！」
太郎「…これは面白い。」
「運んでくれるお礼に、この中から好きなの一本あげるわ。もちろん運んでからね？」
次郎「！！！ほんとかい！？よーし、次郎さん張り切っちゃう！」
次郎太刀は酒を抱え、厨へと運び始める。太郎太刀は襖を見つめ興味深げに現世のミセの庭を眺める。
太郎「これは貴方が？」
「えぇ、少し無理にくっつけて直通にしてるから、あちらとこちらでは時間の流れが違うのが難点だけど…ズレと言っても数十分から数時間だからさして問題ないわ。」
太郎「成る程……あぁ、私も運んできます。」
納得したのか一つ頷くと次郎太刀同様酒を抱えて部屋を出て行った。
丁度その頃、ミセから四月一日が梅酒の瓶と大きな風呂敷を二つ持ってきた。
四月「和泉、梅酒。あとこれ、狐のおでん。」
「狐のおでん！！狐くん元気だった？」
四月「すっかり店主やってたよ。和泉もまた食いに来てくれってさ。」
「そう、良かった。」
四月「前任のことだがな、堕ちかけてんなら霊力でゲートは使えない。だとしたら」
「本丸、または敷地の何処か」
四月一日は頷く。和泉は暫く考える仕草をする。そのうち次郎太刀、太郎太刀が戻って来た。
太郎「おや、この方は？」
「私の師匠よ。」
次郎「酒くれたのはアンタかい？ありがとうね」
四月「いえ、蔵にたまってるものですから。…和泉を宜しくお願いします。」
すっと頭を下げる四月一日に同じように頭を下げる太郎太刀。次郎太刀は「任せなよ」と笑う。
二人は残りの酒を再び運びに行き、四月一日は柔らかく笑みを浮かべた。
四月「いい付喪神だな。…和泉、探しかたはわかるな？」
「誰に聞いているの？貴方の使う術はマスターしてるのよ。」
前任がここにいるのなら、探さなければならない。
やっと光が見えたのだ。笑えるようになったのだ。
もうこの本丸で好き勝手はさせないと、和泉は強く誓う。
〈ぷはー！和泉、そっちにいたんだな〉
「……モコナ、今晩はもうお酒禁止」
〈ええぇー！！！〉
四月「…台無しだな」
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作者名：時雨 | 作成日時：2019年8月30日 11時
