みなの者、ショクジ ページ13
出来上がった料理を並べ、堀川や加州に頼み皆を集めてもらう。
まだ警戒しているものもいるが、青い男が何も言わず席についたのを見て他の者も大人しく座った。
「前任がいるときは食事してないと聞いたわ。私がいるときは、"自由に選んで"ほしい。お腹が空いたら"食べる"。料理に興味があるから"作る"。…そういうふうに、貴方達一人一人が自由に選んで。私からは以上よ。目の前の料理を信じられないなら、毒見するから言って。じゃあ、いただきます。」
加、大、堀、和、薬「「「「「いただきます。」」」」」
作った和泉、加州、大和守、堀川、和泉守、薬研は一斉に食べ始める。
「……い、いただきますっ」
小さく聞こえた声に、皆の視線が集まった。
「五虎退！？何を…！」
水色の髪の青年が声の主に慌てた様子で止めようと手を伸ばす。
白い小虎を連れた少年はその手をするりとかわし、薬研の方へ逃げた。
「…美味しいです！こんなに…温かくて美味しいなんて、初めて知りました…！」
薬研「…五虎退」
「いち兄が心配するのも、わかりますっ…でも、これは僕が選んだんですっ！虎くんを治してくれた、この人を…主様って、呼びたいです…」
最後は涙をぐっと我慢しながら言う五虎退に、大人たちは何も言えなかった。
自分たちが迷い、悩み、そして決めかねていたことを、守ってやるべき子だと思っていた五虎退が自らの意思で選んで発言したということが信じられなかった。
「…いただきます。……お、美味い」
「いっただきまーす！…あ、美味しい！」
「いただきます、主君。」
次々に声をあげ食べ始めたのは短刀だった。
様々なおにぎりの食べ比べが始まる。
少し騒がしくなったことで安心したのか五虎退の涙もすっかり止まっている。
そんな五虎退の頭に、ふわりと手が乗った。和泉の手だった。
「ありがとう、五虎退。…それと、我慢しないで泣きたい時は泣いてもいいの。」
「……！」
優しく母親のように話す和泉の声を聞いていると自然に涙がぽろぽろと溢れた。前任に兄弟を折りたくなければ泣くな、声を出すなと言われたことを薬研にバレるまでずっと黙っていた。自分が耐えれば兄弟は助かると信じ、涙を我慢していた。
五虎「っ、う、主さまぁあ！」
「…今までよく頑張ったね。」
五虎退は数年ぶりに声をあげて泣いた。
そんな五虎退を抱き締め、そっと背中を撫でる。
そばで話を聞いた者以外は、理解出来ずただ見ているだけだった。
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作者名：時雨 | 作成日時：2019年8月30日 11時
