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それから恋柱様はこれから任務だから、と言って蝶屋敷を後にした。
恋柱様のいなくなったAの病室は酷くもの寂しく見えた。
「……A……」
お願い。お願いよ。
早く目を覚まして。皆んな貴方を待っているの。もっと沢山一緒にいたいの。鍛錬もしたいしシャボン玉だってやりたい。
沢山沢山思い出を作りたいの。
Aの冷たい手を握り締めてただ祈ることしか、私にはできない。
ごめん。ごめんね。
私が無力で、ごめんね。
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昏睡状態に陥ってから二ヶ月後。
今日も今日とて病室の花を替えようと花瓶に水を注ぐ。
透明できらきらと煌めく水滴がいくつか私に降りかかった。
水をたっぷり注いだ花瓶に花を挿すと、炭治郎の病室まで運びに行った。
コンコン、と扉をノックする。
しかし彼は眠っている為反応はない。
ガチャリ、とドアノブを引いて扉を開けた。
するとそこには…。
「………大丈夫…?」
目を覚ました炭治郎がいた。
赫灼の瞳が半分ほど開かれている。
そしてその瞳には涙が。何か悪い夢でもみたのだろうか。
「…戦いの後、二ヶ月間意識が、戻らなかった、のよ…」
そう言って割れた花瓶には目もくれずに炭治郎の元へ駆け寄る。
「そう…なのか……そう…か…」
「……目が覚めて、良かった…」
まだ炭治郎は意識が覚醒しきっていないのか途切れ途切れの言葉だった。けれど私は凄く凄く嬉しかった。
ずっとこの日を、彼が目覚める日を待っていたのだから。
そして、今。
この時間は、私と炭治郎の二人きり…。
この時間だけは、私が彼を独り占めしている。
その事実に、胸が踊りドキドキと心臓が早鐘打つのがわかった。
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それから炭治郎の目覚めを喜んでいると炭治郎の部屋を訪れた隠の人に、炭治郎が起きたならもっと騒げやぁ!人を呼べ、意識戻りましたよってよ馬鹿野郎!と怒られてしまった。
それもそうだ。ずっと眠っていた人が起きたというのに私は一切何もしなかった。怒られて当然だ。
それからなほ達が泣きながら病院に走って来て、わーんわーんと嗚咽を零しながら炭治郎の目覚めを喜んだ。
アオイは洗濯物に絡まったまま炭治郎の病室に走って来た。いつもは気丈に振る舞うアオイからは想像できない慌てっぷりに少し綻んでしまった。
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hikari - この作品、めちゃくちゃ面白いです! (2022年4月24日 19時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
美咲 - もし作ることができれば、『<番外編>』を、作ってほしいです。 できますか? (2022年4月7日 17時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
若菜 - 見ていて、悲しくなって、泣きそうになりました。素晴らしい作品ですね。 (2022年3月13日 15時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
琴音 - 切ないところもあったけれど、キュンキュンしました!ありがとうございました🙇 (2022年3月12日 17時) (レス) id: 65eb06c570 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうな(プロフ) - コメント失礼いたします。とても切なく、それでもあったかいお話で感動しました。同時に、このお話の夢主目線のお話も見てみたいなと思いました。もしお時間があり、いいなと思っていただけたらそんなお話も作っていただけたら幸いです。 (2020年11月3日 21時) (レス) id: 51a3f09150 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白霞 | 作成日時:2020年5月30日 19時