打算的な善意 ページ3
*
私の微かな足音に気づいたその人は少しだけ反応を示したが、構わずに感傷に浸っている。
自分自身の個人的なやるせなさとリンクしたその人の姿は誰かに助けを求めているような気がして、顔も名前も存在さえも知らないその人に共感を覚えた。
気がつくと私は立ち止まって差していた傘をその人に差し出している。
雨粒が当たらなくなったことを不思議に思ったであろうその人は顔を上げてこちらを一瞥した。
夜桜の雨の中でずぶ濡れであるという付加価値を差し引いても美しい顔立ちをしているその人を見て、｢しまった｣と思った。
本当に下心では無いのだ、わかってほしいと心の中で誰かに弁解する。
『夜の雨は冷えるから、これ使うて下さい。使たら捨てていただいて大丈夫なんで！』
とだけ告げる。俯いたその人から返事が来ることはなく、沈黙が数秒ほど続いたところでいたたまれなくなりその人の手を強めに掴むと傘を握らせて返事を聞く前に逃げるように立ち去った。
俯くその人に傘を差し出さずにはいられなかった。誰かの悲しみに傘をさせるような良心がまだ自分にあることを確かめたかった。
利用してしまったけれど、それほど私の日々は荒んでいたのだ。心を保つために美しいストーリーが欲しかった。二度と会うことは無い人を利用して、私の中でめちゃくちゃに美化されたこのストーリーにいつか救われたいと思った。
傘を強引に押付けて走って帰った。
自宅はあの場所からさほど遠くなかったものの、あの人の浴びていた夜の雨の冷たさを痛感して自分の打算的な善意を少しだけ誇らしく思う。
夜が明けて目を覚ますと雨は上がっており、青くなった空の光を水滴が受けて眩しいくらいに輝いていた。
またいつもと変わらない今日が始まるが、昨日の押し付けがましい自分の善意で少しだけ勇気を取り戻せた気がする。
あの人は家に帰れただろうか、気がかりだったが坂を転がるように忙しい日々にいつしかそんな記憶は薄れてしまっていた。
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sour(プロフ) - はなさん» はなさん、不慣れなもので……ご親切に教えていただきありがとうございます！！ (2021年11月27日 21時) (
レス) id: 6bf6ad2f5e (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - オリジナルフラグたってますよ……！ (2021年11月27日 16時) (レス) id: 1f4f011eda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sour | 作成日時：2021年11月26日 14時
