序章 ページ2
*
桜も散り始めた4月の夜。
大学4回生になり、就活に終われる毎日に飽き飽きしていた私はサークルの飲み会の後、酔えない身体を引き摺って帰り道の港のカップルロードを1人寂しく歩いていた。
生憎の雨で並べられたベンチからはいつもあるはずのカップルたちの姿は無い。
代わりに水滴がライトアップの光に反射してキラキラと彩っていた。
人っ子一人いない今の状況が不自然なほど、夜でも賑わうこの街はいつも美しいが、今日はまるで異世界のようだと思った。
就活に追われる毎日は心をすり減らす。
毎日のように他人に私の人生をお祈りされては、メンタルもそうまともではやってられない。御社が幸せにしてくれと嘆いたって仕方がないのだ。
先人もこの苦悩を乗り越えたのだから。
いやに感傷的になってしまう心をどうにか保ちたくて参加した飲み会は私の憂鬱に追い討ちをかける。
同期の内定祝いや、OBの求めてないうんちくを聞かされてはせっかくのお酒も毒のように身体を重くするだけだ。
後輩達が二次会に誘う中、気も休まらないので途中で抜けた。1人で歩く夜道は飲み会よりよっぽど心を軽くさせてくれた。
ほどなくして、ベンチにまだ肌寒さが残る季節の雨の夜にも関わらず、傘も差さずに夜に人が座っている事に気がつく。
恐さを感じながら近づくと肩が少し揺れていて、泣いているのだろうか、俯いていて苦しそうに見えた。
打ち付ける雨は地面に落ちた桜の花びらを汚していて、少しだけ人間を感傷的にする。
距離が近づくたび思っていたよりも身体の大きなその人を少し警戒しながらも傘に響く雨音から、桜の花びらを散らすほど雨粒が大きいことを気付かされる。
春の雨の冷たさをその人の濡れた姿から感じていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 295人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sour(プロフ) - はなさん» はなさん、不慣れなもので……ご親切に教えていただきありがとうございます！！ (2021年11月27日 21時) (
レス) id: 6bf6ad2f5e (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - オリジナルフラグたってますよ……！ (2021年11月27日 16時) (レス) id: 1f4f011eda (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sour | 作成日時：2021年11月26日 14時
