├過去情報 ページ26
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「過去」
＿＿元々は『アイドル』という職業自体を知らなかった。
しかしある日、勉強に疲れてふとテレビを見た時に。私は運命的な出会いを果たしてしまう。
其の電子の世界には煌びやかな衣装を纏って可愛らしく歌いながら力強く踊り、にこやかな笑みを浮かべてファンたちを魅了しているトップアイドルが映っていた。
思わず立ち上がり、其の箱を覗き込んでしまった。
其の美しいアイドル達は全員が充実感を満面の笑みに変換しながら次々とお客様の歓声に応えるかの様にプログラムを進行していった。
MCが上手くトーク力抜群で会場を笑いの渦に巻き込んでしまうアイドル。
美しすぎて一度見てしまったら目を離す事の出来ない程妖艶で儚げな魅力を湛えたアイドル。
何事にも直向きで一生懸命、失敗を糧にして前を見据えている妹系アイドル。
まるで王子様かと見紛う程洗練された格好いい容姿と卓越したダンスパフォーマンスを兼ね備えた正統派アイドル。
不思議な雰囲気を纏った歌が上手すぎて聴く人の心を一瞬で掴んでしまう天性の才能を持ったアイドル。
そして、誰よりも真っ直ぐで可愛らしい容姿を持った誰もが応援したくなる様なセンター。
＿＿今思えば私もあの時、彼女達の魅力の虜になっていたのだろう。
直ぐに私は両親にアイドルの素晴らしさ、格好良さ等の魅力と自分の願望を吐露した。
「アイドルになりたい」
そう言った私を最初は訝しげに見詰めていた二人だったけれど、私の熱量に根負けしたのか最終的には認めてくれた。
其れだけでなく、専属のボイストレーナーとダンスコーチを付けてくれ、しかも一流のヘアメイクアップアーティストも呼んでくれた。
演技方面でも活躍できるように、と元著名劇団員の人を講師として招き入れて何ヶ月も修行に勤しませてくれた。
そして初めて受けた『エフェドル』のオーディション。
小綺麗な封筒の封を切る時には、流石の私も緊張で手が震えてしまった。
覚悟を決めて封を破くとぴり、と云う小気味の良い音共に三折になった書類が現れた。
ふ、と息を吐き意を決して書類を開くと＿＿
「……此の後は皆様もお分かりの通りですよね」
そう言って彼女は疲れたように息を吐いて、船を漕ぎ始めた。
そんな彼女をマネージャーは呆れた様に苦笑して見下ろすと、毛布を取ってこようと扉を開けて外へと出て行った。
其の姿を薄目で確認した後。彼女は溜息を一つ落とした後、影のある視線を扉へと注ぐ。
そしてこう小さく呟いた。
「……勿論、全部嘘ですけれどね」
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作者名：杜若 | 作成日時：2023年10月23日 8時
