終わり ページ31
あーあ、奥さんのことも息子のことも全部嘘だったらいいのに。
ヤソップの嘘はわかりやすい。
でも、家族のことは嘘だって思わないからきっと本当のことなんだろう。
「じゃあさ、ヤソップはさ、
もし島で誰かに告白されたら……どうする？」
聞いてよかったのか、悪いのかわからない。
「断るに決まってんだろ。
お前にも何度も話しただろ、俺はバンキーナ一筋だって」
「……その子がもし、世界一のアイドルとかでも？」
「当たり前だ」
「……ホントかなぁ」「ああ、ホントだ」
その言いきった言い方が珍しくて、私は少し悲しくなった。
誰だって叶わない恋なんだろう。
「ま、もしお前がこの先初恋をしても、
既婚者には手ェ出すなよ」
頭に軽く手を置かれてそう言われた。
……どうせ気付いてるくせに。
心の中でそう悪態をつきつつ、
「はぁい」と軽く返事をした。
まるで、恋なんて知らない子供を装うように。
ヤソップのせいで、私まで嘘つきになっちゃったじゃん。
「……そういえば、さっきベックマンがヤソップのこと探してたよ」
話を逸らすように口をついて言ってしまった。
「はっ！？マジかよ、さっき間違ってアイツの煙草海に落としたからか！？いやそれとも……」
嘘なのに、ヤソップは信じ込んで慌ててる。
心当たり、あったんだ。苦笑しつつも心底面白かった。
「……嘘だけどね」
そう告げると、「おい！Aてめェ！」とほっとしながら言っていた。
「やーい、騙された〜！」
私はそう言って、逃げるように部屋へ帰って行った。
分かりきっていたことだった。ヤソップが私になんて靡かないということを。
だけど、あまりにも無謀な恋をしてしまったことと、気づかれてたこと。
それから気付いてないフリをされたことで、
ガキみたいなのは私だけなんだなって実感させられた。
チクリと痛む胸を抑えながら、私はもう彼のことを
ただの仲間だともう一度思うことにした。
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作者名：二段ベッド | 作成日時：2022年10月1日 23時
