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「ほら、早く言ってきなさいよ。挨拶くらいどうってことないでしょ。
全く……じれったいわねぇ」
次の日からナミはいいおもちゃを見つけたと言わんばかりにAに話しかけていた。
ナミは海賊だが、それ以前に思春期の女の子である。友達の色恋を応援したい気持ちが強いのだ。
「だ、だって……ルフィさんにバレて気持ち悪いって思われたら……」
Aは覚悟が決まらずナミに縋りついた。
「大丈夫よ。アイツ、そんな繊細じゃないから」
「そうは言っても緊張するものは緊張するっていうか……」
ナミは自分に対して自身なさげな反応をするAが少し不思議だった。
それと同時に、彼女が「少数の海賊船のクルーのひとりであるということ」
にプレッシャーを感じていることも察する。
「……ってうわ！大変！」
ナミがふと空を見上げると、東の方向には曇天が広がっていた。
そして、その黒い雲はAたちの方へ刻一刻と近づいてくる。
「アンタたち！十二時の方向に舵とって！」
ナミはさっきのおちゃらけ表情がまるで嘘だったかのように
テキパキとクルー達に指示を出していく。
その様子にしばらくAは尊敬の念を送るだけだったが、
少しするとハッとして「私もなにか手伝います！」とナミに指示を仰いだ。
「じゃあ、アンタとルフィは帆を畳んで！」
「わかった！」「おう！」
彼女の指示に従い、二人は歩を畳もうと手を伸ばす。
しかしAの手は上の方まで届かない。
ルフィの方はゴムの性質を持つ腕を、物理的に伸ばしたため、帆をしまうのは容易だった。
「ルフィさん！そんなに強く持ったら破けちゃいます！
下に下ろしたら私に任せてください！ちゃんと束ねますから！」
帆が破けたら風に任せて航海することができなくなってしまうことくらいなら、Aにもわかった。
「わかった！」
キャプテンたるルフィはそれもあまり理解していなかったが、
一番の新人のアドバイスにも元気よく答え従う。
それから何とかスコールに見舞われることなく穏やかな海に戻ると、
ルフィはAの顔をじっと見た。
「おれ、おまえ好きだな〜」
照れもせず、何を考えているかも分からない顔で彼はをそう告げた。
しかし彼女はそう単純に手放しで喜べなかった。
その「好き」というのは、「クルー」や「仲間」としての好きなのだろう。
ナミにもウソップにもゾロにも、他のクルーたちにも友達にも向けられる感情。
そんな制限のないものだ。そう思った。
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作者名：二段ベッド | 作成日時：2022年10月1日 23時
