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「私の名前はA。ここで一人で暮らしてるんだよ。
こんなところよく辿り着いたねぇ。
さぞかし怖かったでしょう。
こんな辺境で他人に会えるなんて夢みたいだよ」
久しく人と会っていなかったから、少し緊張しちゃうなぁ、
なんてAはおどけてみせた。
いつもなら生きるためだと言うなら辞さない愛想笑いが出来なくなるほど、
ロビンは懐かしさに胸打たれていた。
この人なら、信用してもいい気がする。
ついそう思ってしまうのだ。
人を信じる時、絶対にその人が裏切った時に傷つく義務が生まれるのだ。
でもその苦しみを今だけは忘れて、彼女の優しさに触れてもいいのかとすらロビンは思った。
「えーっと……名前を訊いてもいいかな」
Aは少し困惑した様子だった。
元々子供と話すのは得意じゃなかったのだ。
思考回路が大変読みにくいからだ。
その上目の前の少女は一等訊いてはいけないような過去や事情がありそうだったし、
触れたら壊れてしまいそうな程不安定で、
何を考えているのかわからないのだ。
「……ジェシーです」
ロビンは咄嗟に嘘をついた。
二度裏切られた後はずっと偽名を使って生きていたのだ。
前の時はアリスで、その前の時はマリー。
メアリーとか、アグネスとか、色んな偽名を使ってきた。
ロビンは偽名を名乗る時、半分死んだような感覚に陥るのだ。
そう思い込むと、裏切られても、酷いことを言われても、
「可哀想」なのは「偽名の子」だと思い込める。
裏切られたのは「ニコ・ロビン」じゃない。
そう考える他なかった。
「そっか。ジェシー。いい名前だね」
言い易くていいねえ、なんて雑とも言える褒め方をするAがおかしく、
ロビンは少し頬が緩んだ。
今の私でも笑えるんだ。また一つ嬉しくなった。
かつての親友は「悲しい時ほど笑え」と言ったが、
その教訓もいつかは忘れ去ってしまいそうだったのに。
あの言葉が色濃く頭に浮かぶのは、
きっと目の前の女性が優しい人だからなのだ、と
ロビンは信じてしまいたくて仕方なかった。
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作者名：二段ベッド | 作成日時：2022年10月1日 23時
