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「取引?」
真っ赤なリップをひいた唇が紡いだ言葉を、
自分の中で反芻するように繰り返した。
「そう、取引よ。」
取引
とりひき…
唐突すぎて、正直言われた言葉の意味が全く分からなかった。
「…それをすることで、貴女にどんなメリットがあるんですか?」
その一挙一動を慎重に見極める。
何か裏が…?
「取引」という言葉に、見かけ以上に深い意味が込められている…とでも言うのか
「大アリよ
ここ最近、貴方たち私を捕まえようと躍起じゃない。
特にCIAのあの子…彼女、何か勘違いしてるみたいだけど
ホントにしつこくて、
数日前に私のお気に入りのスポットまで特定されちゃったわけ!
もう勘弁して欲しいわ…」
「…は?」
「だから…こちらからの条件はただ1つ
私の捜査を打ち切りなさい。
予想外の返答に気が抜けた。
CIAのあの子…というのは恐らく、
キールの潜入中、その連絡役を担っていた女性捜査官のことを指しているのだろう。
そこまでは辛うじて分かる
けれど
目の前の女が言っていることは
つまり、なんだ
”追われるのに疲れた”
それだけの理由でわざわざ変装を解いて敵地に単身乗り込んできた?
馬鹿なのか…?
一瞬、3徹目の俺の頭が作り出した都合のいい幻想かと疑ったが、左手でつねった頬が痛かったのでどうやら現実らしい。
…にしても、取引条件が
各国の諜報機関が威信をかけて臨んでいる捜査の打切りだなんて
「…
そのような下らない理由で、このような無謀な取引を?
…取引を了承したとして、こちらにはいったいどんな利益があるんだろうな?」
明らかに、違法な取引
それに、了承すれば必然的に、ベルモットを日本で匿う形になるわけで
最悪の場合、今この時も総力を上げてこの女を探し回っているであろう様々な捜査機関を、まとめて敵にまわすことになる。
俺の独断で捜査を打ち切ることは出来ない。
上を納得させられる条件でなければ
…生半可な条件では、応じられない。
目の前の女は「そうねぇ」と余裕を湛えた笑みを浮かべた。
「協力者になってあげる
この私が、
FBIでも
CIAでも
MI6でもなく…
貴方たち、公安警察だけの協力者にね」
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作者名:とみーさん | 作成日時:2020年9月4日 2時