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_カラスミパスタ
ポアロに来た彼女は、ほとんど決まってそれを注文していた。
「美味しい!
梓ちゃん、本当にすごい…天才!!」
「天才だなんて大袈裟な…ちょっとコツを掴めば、誰でも作れますよ〜!」
「ううん、これは本当に天才的…
梓ちゃん、ぜっっったい良いお嫁さんになるよ!
100人いたら100人みんな合格点出すよ、胃袋持ってかれちゃう」
カウンター席にて、左手で器用にパスタを巻き付けて、満面の笑みで口を動かしていた彼女
1拍おいて、「だよね、透さん?」とこちらに同意を求めてきた。
「そうですね
貴女も少しは見習ってくれれば嬉しいんですけど…」
お菓子作りはできるくせに、なぜ料理が出来ないんですかね?と、多少皮肉を込めた視線に気付いたのか、
彼女はムッと顔を歪ませた。
「だってお菓子づくりの方が気楽にできるんだもの…
それに、
透さんが作る料理が美味しすぎるのがいけない!」
考えて見て、梓さん…
お家に帰ったら料理店顔負けの美味しいご飯が、おかずが、お野菜が並んでいるのに、
わざわざ自分で作ろうなんて思わないよね?
なんて力説している目の前の彼女は、放っておけば食パンとカット野菜とヨーグルト、あと少しの煮干しを頬張って1日を終えるだろう。
(実際、同棲を始めた頃に彼女の食生活を目の当たりにして絶句させられた記憶がある。)
「お菓子は美味しく作れるんですから、やれば出来るでしょう?」
「やれば出来るかもしれないけど、やりたくないの!
透さん、自分が作った方が美味しいのわかってるでしょう?」
「僕にとっては、貴女が作ったことに替えがたい価値があるんですよ」
「…ふーん、そっか」
「はいはい、あんまりノロけると炎上しますよ〜」
「「それは勘弁してもらいたいな/ですね」」
_今思い返せば結局、
料理はずーっと僕の担当だったな。
最後の、最後まで。
荷物をまとめながら、懐かしい想い出にクスリと笑いが漏れた。
大丈夫、覚えている。
自分はまだ、ちゃんと
彼女の声が分からなくなっても、
子供みたいな笑い方も
咄嗟に左手が出る
美味しそうに料理を頬張る姿も
全部__
「…でも、そっか、安心しました!
心配してたんですよ
最近、LINEの返信が遅くて遅くて
返ってきても、深夜とか朝方とか、すっごく変な時間だし…」
梓さんの言葉に、時間が止まったかと思った。
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作者名:とみーさん | 作成日時:2020年9月4日 2時