ポアロと彼女 ページ20
「16時54分…安室さん、17時に上がりでしたよね?」
おやつの時間からシフトに入っている梓さんの言葉に、頷く。
「今ちょうど客足も落ち着いてますし…
先に上がっちゃって下さい!」
ニコリと笑う姿に、日々の毒気を少し抜かれた気がする。
「じゃあお言葉に甘えて…お先に失礼しますね」
「はい、お疲れ様です!」
新一くんたちが帰ってから殺到したJKたちの相手も、何とか一段落。
客席をぐるりと見渡すと、
近所のおばあさんや、本好きの学生さんが
思い思いの時間を過ごしていた。
バックヤードに引っ込む直前、
「うーん…」
扉の方を見て唸る梓さんに、
思わず声を掛ける。
「…誰か待ってらっしゃるんですか?」
「いや、約束している訳では無いんですけど…
サラさん、来ないかなぁーって」
何となく、予想はしていた。
シエスタの後、組織の仕事の前。
この時間は、彼女が自由に町を歩き回る時間だったから。
「安室さん、何か聞いてます?」と問われて「…さあ」と小首を傾げて見せた。
「最近は忙しなくしてるようで…
また落ち着いたら来ると思いますよ」
エプロンをたたみながら返事をする。
途端、梓さんは「ああ!」と何かを得心した様子で手を打った。
「前まで大学院の修士課程にいらっしゃったんですから、今は新社会人ですよね!
そりゃあ、すっごく大変だ…」
東都大学院の工学部でしょう?きっと就活でも引く手あまただったんだろうな〜と
自分の事のように嬉しそうに呟く梓さんに、適当に相槌を打った。
「ふふ、サラさんが来るなら、またカラスミ多めに仕入れとかないとですからね」
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作者名:とみーさん | 作成日時:2020年9月4日 2時