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「…あ!歩美ちゃん、元太くん!
もう2時半を過ぎてます!!」
壁の時計を見て、少年が飛び跳ねた。
「まじかよ!」
「公園とられちゃう!早く行こう!
蘭さん、新一お兄さん、またね!」
「デート楽しんでください!」
「はぁ…ありがとよ、またな」
もうデートという単語には突っ込まない方向で行くらしい。
「車には気をつけてね!」
「はーい!」
「安室の兄ちゃんも、ごちそーさん!!」
「はい、お粗末さまです」
バタバタと慌ただしく荷物をまとめて、ランドセルを背負う。
3人は来た時同様、
ドアベルを鳴らして晴れの米花町に飛び出して行った。
「嵐かよ」
ボソリと呟いた高校生探偵は、「俺らも行くか」と伝票を持って立ち上がる。
「そうだね。降り出す前に帰りたいし」
「安室さん、お会計お願いします」
「はい、ありがとうございます!」
レジに立って、お代をしっかり預かって
ドアに手をかけようとした2人を見送る…その時、
外からバッとポアロの扉が開いた。
カランッと、ベルの音が大きく響く。
そこには、先程出ていったばかりのカチューシャを付けた少女が、少し息を切らして立っていた。
ドアに手を伸ばしていた名探偵は、扉にぶつかる直前に身を逸らして何とか回避。
「うわ!どうした歩美?」
「忘れ物?」
首を傾げる2人に「ううん、違うよ」と頭を振って、こちらに視線を向けた。
「安室さんにね、これ…」
「え…」
小さな手から反射で受け取ってしまった、それは
彼らが彼女に渡すはずの、小さな、可愛らしい桃色の
「歩美たち
2年生になって前より学校が終わるの遅くなっちゃったし、
宿題もいーっぱいになって、あんまり公園に行かなくなっちゃったから、
次いつ会えるか分からないけれど…
安室さんなら、絶対にサラさんに渡してくれるよね!」
その言葉に、こちらを伺うように視線を動かす新一くん。
俺は言葉に詰まって、手元の紙袋から目が離せなかった。
「じゃ、光彦くんたち待ってるから!
また一緒にサッカーしてねって、伝えておいてね!」
カランカランと、また軽快な音が響く。
「あ、安室さん。ごちそうさまでした!」
慌ただしい一部始終に苦笑して、今度は蘭さんが扉に手を伸ばす。
「…ごちそうさまでした」
「ありがとうございました!」
自分は、ちゃんと笑えていただろうか?
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作者名:とみーさん | 作成日時:2020年9月4日 2時