【H×H】クロロに愛されるだけ【短編集】 (ページ38)

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何も知らない彼女はページ38

＿＿＿＿＿あれ、私、誰だっけ。

「A」

知らない男の人が、こちらの目を覗き込む。
A?私の、名前?

『だれ?』
「クロロ=ルシルフル。君の恋人だよ」

クロロさん?は綺麗な笑みを浮かべた。
恋人?そうなの、かな?

「Aは大きい事故に巻き込まれたんだ。そこで全て記憶を失ったんだろう」
『そう、なの?』

よく、わかんない。

「A、良かった…君が無事で」

突然腕を回され抱き締められ、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
この感覚、前にも…
でも、あれ?こんなにがっしりしてたっけ…?

『あ、の』
「あ!ごめん。急に怖かったよね」

ぱ、と腕を離し、申し訳なさそうにしている。

「記憶が無いのに、こんなこと言われるのは困るかもしれない。でも、言わせて欲しい」

あまりに真剣な表情でこちらを見るので、こっちも緊張してしまう。

「A、好きだよ。もう1度付き合ってくれる?」

大丈夫、君が忘れた分は俺が教える。
もう1度傍にいてほしい。今度は俺が君を守る。

優しい瞳で、優しい声で言ってくるから。

『…うん』

そう、返事をしてしまったのだ。

＿＿＿＿＿
「A、こっちにおいで」
『うん』

クロロは手招きをして私を呼ぶ。

私が記憶を無くして何日が経っただろうか。
まだ、記憶は戻らなかった。
記憶が戻らないことを謝るが、クロロは大丈夫だと笑ってくれた。

記憶を失った私は、何も知らなかった。
何も出来なかった。

私は勉強のために外に出たいと言った。
すると、外は危ないと心配そうに言われてしまった。

クロロが危ないと言うなら、きっとそうなのだろう。外には出ないことにした。

だから私はクロロ以外、何も知らなかった。
でも、やっぱり。

『私、このままでいいのかな。このまま、何も出来ないままで…』
「いいんだよ、Aは今のままで」

大きな手で優しく頭を撫でられるのが気持ち良くて、眠気がゆっくりと襲いかかる。

『くろろ、わたしを捨てないで…』
「捨てないよ」

大丈夫、大丈夫。
そう幼子をあやす様に何度も言う。

『くろ、ろ。だいすき』

眠気に耐えきれなくなって、瞼を閉じた。

「俺も、Aを愛してるよ」

よく利用していた情報屋だった彼女。
最近男が出来たらしいが、そんなこと許す筈もない。

あぁ、やっと。Aは俺無しじゃ生きられないようになった。