【H×H】クロロに愛されるだけ【短編集】 (ページ29)

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穢れたモノページ29

『...神よ』

静まり返った夜。

並べられた長い椅子と、美しいステンドグラスを尻目に、私は奥へと続く赤い絨毯の上を歩く。

胸の前で手を組み、祈りを捧げた。
十字架のペンダントが揺れる。

私は街の教会のシスター。
街は人気が少ない、小さなもの。
...廃れている、と言ってもいいかもしれない。

けれど、子供たちが走り回るこの街の人々は、とても暖かいのだ。
たとえ廃れているとしても、私はこの街が大好きだった。

しかし、この街に恐れられる存在がいる。

『どうか我らを救いたまえ』

この街に、最近現れた者。
それは、吸血鬼だ。

毎夜街の人の血を吸っては、闇へ消えていく。
血を吸われた者は干からび、目も当てられない姿へと変わっていた。

見つかった死体は、50人を超えてしまった。
その死体の中には、私の友もいた。

『あの穢れたモノから救いを』
「穢れたモノ、な」

後ろから聞こえた声。
ゾワッと寒気がして、振り返った。
そこにいたのは。

『クロロさん...?』

最近この街に住み始めたクロロさん。
優しい笑顔が印象的で、短い付き合いでも皆に愛されていた存在。

でも、違う。
今のこの雰囲気は、私が知っているものでは無い。

私は気づいてしまった。
少し見えた彼の歯が、鋭く尖っていることに。
いやしかし、そんなはずは。

『吸血鬼...?』
「ご名答」

クク、と愉しそうに喉を鳴らす。
細められた目は、まるで獲物を狙う狼のよう。

嘘、でしょう。
あの笑顔の裏側に、こんな正体を隠していただなんて。

ガタガタと体が震える。

「一番美味そうな匂いがするお前を見つけた日から、ずっと我慢していた」
『我慢...?』

ずっと狙っていたというの?
なのにどうして我慢なんて。

「美味いものは最後に残してゆっくり味わいたいものだろう?」
『何を言ってるの...?』

何を考えているのか。
恐怖で頭は回らず、使い物にならない。

「そろそろこの街も去ろうと思ってな」
『!』

この街を出ていく
これで皆が安心して生きられる...!
そう、喜んだのも束の間。

いつの間にか、私は捕まっていた。
逃げなきゃ、いけないのに。
足がすくんで動けない。

死にたくない。
ただその言葉が頭の中をぐるぐると回った。