【煉獄杏寿郎】全力で救いたい！【トリップ】弐

玖拾参 ページ46

肉を斬る感覚がした。
けれど、炭治郎の首は斬れていなかった。

私が斬ったのは、死んで塵となって尚、炭治郎に縋っていた無惨。

精神世界へ介入し、死んだ者の執念を斬る。
これは人間に出来ることではない。

鬼だからこそ、なせる技。

「炭治郎が止まった…？」
「人間の姿だ！！息もしている！！」

よかった、上手くいったみたいだ。
…あれ？体の感覚が、ない。
全身が、痺れてる時みたいになんの感覚もない。
今私は地面の上に立てているのだろうか？
刀は握れてる？手を握り締めても分からない。

見て確認しようとして、はたと気付く。
困った、目が見えない。これでは何も分からない。

「A！！」

あ、煉獄さんの声。
そしてカラン、と金属が落ちる音。
きっと私は刀を落としたのだろう。おそらく。
よかった、耳は聞こえる。

「A、無事か！！」
『ぶ、じ、で…』

声からするに、煉獄さんは案外近くにいるらしい。前にいるかな？
手を彷徨わせると、何処かで固定されて動かなくなった。煉獄さんが繋いでいてくれてるのかな。

「目が見えないのか…！！」
「Aさん、胡蝶です。これから質問することに“はい”か“いいえ”で答えてください」

目が見えるか、痛みはあるか、と次々と質問される。
それに答えていくうちに、しのぶさんの声が少しずつ焦っているような気がした。

「次に触られている感覚は、」
『しの、ちゃ…も、い、よ』
「何がいいんですか！！諦めないでください！！」

もう無理なんだよ、しのぶちゃん。
いいの、知っていたことだから。
そんな泣きそうな声出しちゃだめだよ。

「死なないで、Aちゃん…っ！！」

蜜璃ちゃんとは一緒に服を選び合おうって言ってたのにな。約束守れそうにないや、ごめんね。

「こんな所でくたばるな…！！俺はまだ自分の力に満足してねぇ、俺を強くするんじゃなかったのかよ！」

獪岳…。
継子としての関係も短かったなぁ。
でも、もう十分強くなったよ。ぐんぐん成長してさ。頭撫でたいけど、それは嫌がるかな？

「Aさん…、俺、俺のせいで…っ！！」
「死ぬんじゃねぇ！！お前俺よりずっと強ぇだろ！！」
「Aさん！！禰豆子ちゃんとの恋応援してくれるんでしょ！！」

かまぼこ組も、泣いてる。
炭治郎、君のせいじゃない。それだけは違うよ。
伊之助だって強いし、善逸の恋は見届けたかったけど、結ばれるって知ってる。頑張って。

皆沢山私の名前を呼んでくれる。
それだけでもう幸せだ。

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