送り狼 ページ25
送り狼。
日本各地に伝わる妖怪。
夜中に山道を歩くと後ろからぴたりとついてきて、転んだところを襲いかかる。
正しく対処すると逆に周囲からその人を守ってくれるともいう。
ザッザッ
ゆっくりと積もった葉の上を下駄で歩いていく。
雨上がりでぬかるむ地面は歩きにくいことこの上ない。
「こんな夜遅くまで、大変だなぁ」
『えぇ、まぁ…』
ザッザッ
足音は私だけじゃない。
後ろからはゆっくりゆっくり、男がついてきている。
私は呉服屋の娘。
今は注文されて仕立てた着物をお客さんへ届けた帰りだった。
お客さんと談話している内にすっかり暗くなってしまったのだ。
本当は夜の森なんて怖くて歩きたくないけれど、銭を家に置き忘れたため無一文。
宿代すら払えない状況だった。
泣く泣く森を歩き始めると、なんと後ろから男がついてくるではないか。
そして私はひしひしと本能で感じ取った。
“人間ではない”、と。
「夜道は危ない。俺が守ってやろう」
『…頼もしいですね』
本心ではあった。
守ってくれると言うのだ、怖いが頼んでしまおう。
歩いている途中、男は世間話を持ち掛けてきた。大した話ではない。あそこの甘味が美味しかったとかそんな話だ。
『…っぁ！』
中々面白い話もあるんで聞き入っていると、とうとうぬかるんだ土で滑り転けてしまう。
私は前に手をついた。
瞬間、ぞわりと背筋が凍る。
「転けたな？」
『い、いえ。休憩をとっているだけです』
落ち着け、落ち着け。
早まる鼓動を抑えようとした。
男は大きな目でじっと私を見た。
「…そうか」
男の雰囲気は元に戻る。
今の質問に肯定していれば、私はきっと…。
『…お待たせしました』
「休憩はもういいのか？」
『はい』
あくまで私は“休憩を取っていただけ”。
大丈夫。
「…む、鬼の気配がするな」
『鬼、ですか…？』
「あぁ、心配しないでくれ。君は俺が守ると言ったろう？」
少し此処で待ってなさい、と言うと、男が目にも留まらぬ速さで消えた。
1秒後、何かの叫び声が聞こえた。
「やぁ、待たせたな。もう鬼はいないぞ」
『…はい』
気づいた時にはもう戻ってきていた。
男は待たせたと言ったが、私としては一呼吸した時には終わっていたのだ。
なんという速さだろう。
そのまま歩いていくと森を抜け、家に着く。
『守ってくれてありがとう』
私はそうして別れを告げた。
「…あぁ」
その男の声は酷く残念そうだった。
「次は食べたいものだなぁ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 681人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
oemi200174(プロフ) - 猫は飼われるだいすきです！！！またみたいな〜と思ったらパスワードが！！？よかったら教えて欲しいです🥺 (5月31日 2時) (
レス) id: bdeac365d5 (このIDを非表示/違反報告)
おゆまる(プロフ) - メッセージの送り方が分からないのでこちらに送らせて頂きます🙇🏻♀️もしよかったら極道パロのパスワードを教えてもらいたいです､!! (2022年8月25日 22時) (レス) id: ed127571e4 (このIDを非表示/違反報告)
ナキサ(プロフ) - けとるんさん» ここまで読んでいただきありがとうございました！続編も、また暇な時にでもよろしくお願い致します！ (2021年11月14日 15時) (レス) id: 9d3d6315a8 (このIDを非表示/違反報告)
けとるん - 極道パロ、手に汗を握って読ませていただきました！とても面白かったです！続編楽しみにお待ちしています！ (2021年11月8日 9時) (レス) id: 824a2e6377 (このIDを非表示/違反報告)
ナキサ(プロフ) - マリーさん» 続編なら弐の方を公開させていただいてます、読んでくださると嬉しいです！ (2021年2月16日 19時) (レス) id: 9d3d6315a8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ナキサ
| 作成日時：2020年12月5日 23時
