戻りたければ手を汚せ―同田貫清国編― (ページ5)

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男士高本丸の同田貫清国―彼が存在する所以―　② ページ5

「君のお兄さんと似てるのか？」
「あァ。
　…ずっと昔に居なくなったけどな。」
「病気…とか？」
「知らねェ。
　突然居なくなった。」

男子の表情がどんどん暗くなる。
しかし、Aの存在をふと思い出したのか表情を戻す。

「悪ィ。
　あんたにこんな話して、詫びと言っちゃアレだが、その刀について俺の知ってる事教える。」
「良いのか？」
「ここまで来たんだ、少しでも知識があった方が楽しいだろ？」
「それはまぁ……うん。
　じゃあ、お願いするよ。」
「おう。」

Aの隣に立ち、“同田貫正国”の説明をする。
それは専門家みたいに詳しいとこまで。

「詳しいんだね。」
「…縁があるからな。」
「縁…？？」
「気にしなくていい、あに…――。」

き、と言いかけて口を思わず塞ぐ。
その顔は羞恥で真っ赤に。

「良いんだぞ。
　今、ここに居るだけでも“兄”と呼んでも。」
「――…けどよ。」
「こんな俺が君の兄に似てるなら、重ねて見ても良いんじゃないか。
　俺で、良いなら…それに、そうやって我慢するのもよくない。」

Aには兄弟も姉妹もいない。
その場限りでも、弟は欲しかった。

「俺に弟居ないし、俺は嬉しいなー。」

男子は少し悩んだあと、恥ずかしそうに「兄貴…。」と呼んだ。

「どうした？」
「…俺、だけの……兄貴…。」
「そうだぞー。今だけは君のお兄さんだ。」

そう言って頭を撫でる。

「…今、だけ。」
「そう。」
「………なァ、俺の事呼んでくれよ。」
「君の事を？」
「あァ。」
「じゃあ、教えてくれないと呼べないな。」
「……そうだな。」

少しだけ悲しそうな表情をしてから、Aに抱きつく。
恥ずかしいから、だろうか。顔を見せようとしないで小さく「正国」と言った。