第三話 ページ4
Aside
あんま、強い鬼がいない。
いや、ありがたいんだけど、呼吸使いたく無いし、
ありがたいんだけどね!?
なんつーか、期待外れっていうか…
まだ1日目だからって言うのもあるんだろーけどさ…
もう、12人倒したよ!?
てか、早くない?
何でそんなに寄って来んの!?
『あっ…』
鬼が近づいてきてる。
50m以上先だけど早く倒すに越した事は無いよね。
俺は、一気に鬼との距離を縮めた。
鬼side
「ハハハハハッッ!稀血‼稀血だァ!」
幸運だ!俺は!この匂い…
稀血の中でもさらに希少!
こんな山で出会えるとは!奇跡に近い!
「ハハッッ!これで、これで俺も強くなれる!
軟弱な人間に殺される事も『誰が軟弱だって?』
いつの間にっ!さっきまで匂いは遠かった!
それが今、俺の目の前に…!
落ち着け、落ち着け俺!相手は餓鬼じゃないか!
一度傷つければ、すぐ倒れる。
「グアゥォォォ!!!」
俺はその餓鬼に襲いかか…ろうとした。
何だ…これ。視界がどんどん地面に近づく。
「頸を…斬られたのか!!??」
気付かなかった!全く!痛みも無かった!
頸が地面に落ちる寸前、餓鬼が手で受け止めた。
「?!」
餓鬼が俺と目線を合わせ、
顔を覆っていた札を取り、
真っ直ぐ俺の目を見つめる。
其奴の左目は、息を呑むほど、
深い。
『貴方の名前、覚えてますか?』
何故其奴が、俺の名を聞いてきたのかは分からない
だが、目を見ている限り、それは拒め無い。
「涼篤…涼しいに篤いと書いて涼篤…」
久しぶりにその名を口にした。
忘れかけていた様な気さえする。
『涼篤さん。
そう呼んでもらえたのはいつぶりだろう。
懐かしい響きだ。
良い名です。
涼篤さん、忘れないで下さいね。
涼篤さんも、軟弱で、優しい、人間だって事』
「…っ!」
今迄、欲しかった言葉。
人だった時も鬼になってからも、
誰もくれなかった言葉。
それに今の俺を人間と呼んでくれている。
見ず知らずの、此奴が。
さっきまで恐ろしく見えていた目が、
今は愛おしい。
何か暖かいものが目から溢れて頰を伝う。
自分が消えて行くのを感じながら、俺は言った。
「ありがとう、ありがとう…」
13人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:夜桜 | 作成日時:2019年10月1日 14時