. ページ45
それを角を揃えてファイルに綴じ、茶箪笥の引き出しの底、2重に細工した中にしまい込む。
万が一があってはならない。
それは同じ本丸で暮らす刀剣男士達を除く全員に対して向けられた警戒であり、近頃乗っ取り等の良くない噂が立つ見習い受け入れ中は特に強くなる。
幸い、過去にそのようなことは無かったが、今回もそうであるという保証は無い。
過去に政府の役人を糾弾した事で、一部からは恨みを買っている。それがいつ晴らされてもおかしくは無い。
いくら彼女側に正当性と支持があっても、結局審神者を統括しているのは政府、彼等の意向で自身の身が危ういことを███は誰よりも承知していた。
そして、自身に何かあった時、他の審神者たちに与える影響も。
麝香も強いが、彼は力に頼るきらいがある。
他の審神者達とはあまり交流せず、ただひたすら戦術を磨き、無駄を省き、時間遡行軍を殲滅することに注力している。
そんな彼が、果たして自分が居なくなった時、相模国所属の審神者達の混乱を防ぐことが出来るだろうかと、考えることがあった。
彼にできなくとも、誰よりも信頼していて、且つ誰よりも敬遠している人物が再び力を束ねるであろう事は想像に易いが。
「主君、考え事ですか? 」
「前田……。いいえ、何でもないわ。それより、温かいお茶を2つお願いしてもいい? 」
いくら本丸を治める審神者とて、全ての刀剣がどこで何をしているか把握する力はない。特に短刀は。
いつの間にか部屋の外に控えていた短刀に一瞬だけ目を見開いた彼女は、鮮やかな緋色の長羽織を纏いながらそう答える。
「勿論です。菓子の類はいかがされますか? 」
「そうね、じゃあ一通りのものを2つずつ。」
しょっぱいもの、甘いもの、ピリ辛いもの。一通りあれば好みのものもあるだろう。
███自身、日常的に菓子を好んで食べることは無いが、食には人の心を和らげる力がある。
見習いとの関係構築の為であれば、自身の嗜好は二の次にするのが彼女であった。
審神者と見習い、ただ先に職位に就いただけの者が驕り高ぶる理由は無い。いずれも国の歴史を守る為の駒に過ぎず、等しく地獄への道を歩む同士であるのだから。
76人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:セネン@30分クッキングin備中国 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年12月26日 1時