旧時を偲ぶ ページ44
桜雨が降る中、2人の女性と1人の刀剣男士が向き合っていた。
｢今日から見習いとしてお世話になります、XXXと申します。短い間ですがよろしくお願い致します、███様。｣
小柄で可愛らしいといった出で立ちの見習いは、███と呼んだ女性に深々と頭を下げる。
見習いより少し背の高い彼女は、その様子に微笑みを浮かべていた。
｢こちらこそよろしくお願い致します。ひとまずは荷物を置いて、その後にお話しましょうか。
歌仙、お願いできるかしら？ ｣
｢あぁ、任されたよ。｣
彼女の傍に控えていた歌仙兼定が、慣れたようにそう答える。
███。相模国に双璧を成す1人にして、数多くの見習いを担当してきた模範的な審神者。
たおやかで、芯のある才色兼備の逸材。
そんな高嶺の花とも言える彼女を常に傍で支えるのが、初期刀である歌仙兼定。
この2人が見習いを出迎えるのはいつも通りのことであり、何ら不思議なことではなかった。
見習いが来る度に、この2人はこうして出迎えていた。
｢ではXXXさん、執務室でお待ちしております。案内は歌仙に任せるので、分からないことがあれば遠慮無く聞いてくださいね。｣
｢はい、お気遣いありがとうございます。｣
経験上、見習いというのは審神者に萎縮して遠慮すると███は分かっていた。
他の者であればそんなことも無いのだろうが、彼女ほどの審神者となれば話は別だ。双璧のもう1人、
彼女自身、雰囲気の固い者が側にいるのは苦手であり、自分がされて嫌なことを他人にするような質ではない。
故に、彼女は見習いと少し距離を置くようにしている。
その中には、少しでも刀剣男士達と打ち解けられたらというささやかな意図も含まれているが、それを語ることは決してない。
歌仙に連れられて案内へと向かった見習いを背に、███もまた、執務室へと足を向けた。
XXXさんは、甘いものは好きかしら、お茶はどんなものがいいかしら、どんなことに興味があるのかしらと、これから始まる見習いとの短い生活に楽しみを見いだしながら。
執務室の中はきっちりと整頓されており、机上の書類には歴史修正主義者の動向であったり、相模国のこの戦争への貢献度、今後の予測について等の機密情報が事細やかに、小さな字でびっしりと書かれていた。
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作者名：セネン@30分クッキングin備中国 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年12月26日 1時
