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しかし、起き上がれないことを伝えることすらできない。彼からすれば、ただ起き上がる気のないようにしか見えないだろう。

必死に体を動かそうと試みてはいる。それでも、無理なのだ。
決して怠けている訳ではない。これが精一杯だ。

だから、許して。

ごめんなさい。

怒らないで。

ごめんなさい。

思い出さないようにしていた嫌な記憶が浮かび上がると同時に視界が滲んで、逃げ場の無い恐怖と痛みが思考を埋め尽くしていく。

『どうしてお前はいつもいつも──!』

『人を怒らせることだけは1人前なのね、さっさと本当の母親のところに行ったらどう?』

怖くて、痛くて、忘れたくても忘れられない。
どうしようもない状況になると、どうしてもフラッシュバックに襲われる。
私が彼らに会うことはもう二度と無いと、この大らかな刀剣男士はそのような事を言わないと分かっていても、深く突き刺さった棘は、それが作った傷は痛み出す。

大丈夫、大丈夫と内心で繰り返しながら、息を潜めるように細く長く、吸っては吐く。

「ちょいと失礼するぞ。」

そう言うと、一文字則宗は私を抱え上げた。

隠居だのじじいだのと(のたま)うわりに、その動作に躊躇いはなく、軽々といった様子であった。

「お前さんの歴史を否定するつもりはないが、そろそろ次に進まないとな。だが、今はまだ眠っていなさい。」

落ち着いた囁きが降る。
目を開けているだけで何もできないなら、その通りにした方が楽だ。

「おやすみ。次に目が覚めた時、お前さんの世界が変わっていることを願っているよ。」

思考と意識は、ゆったりとした一定間隔の揺れにすら振り落とされていく。
ふと、まだ命の価値すら知らなかった頃の光景が脳裏を過ぎった。親の腕に抱かれる幼子も、同じ感覚なのだろうか。

……あの子達は、元気だろうか。

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作者名:セネン@30分クッキングin備中国 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年12月26日 1時

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