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刀剣男士の極に相当すると考えられているその個体がどれほどの強さなのかは知らないが、いくら単純な力で勝るとも、敵全体の数が多すぎる。
帰るにも門は遠く、足となれる後輩も今日は別任務で不在。
せめて、建物の中に入ることができればいくらか時間は稼げるはず。
しかし、風が邪魔だ。まだ目を開けていられる程ではあるが、素早く動くのは不可能であると考えていい。
動けなければ、斬られて終わり。
いつ死んでもいい覚悟はとうにできているが、あの人の遺言を無下にする訳にもいかない。
全て燃やしてしまえばいいのかもしれないが、降り立った異形は何時ぞやの大侵寇と比較しても遜色無いように見える。
それだけ現れておいて、雲底の穴は未だ減る気配が無い。
燃やすのは霊力の消耗が激しく、いくら霊力量が多くとも力尽きる前に燃やし尽くせる保証も無い。
そして、自身の状態について私自身が1番よく分かっている。
ならばここは、可能な限り力を温存しつつ応援を待つのが最善だろう。
遡行軍が現れたことによって瘴気という燃料が供給された今、とりあえず手近な敵を燃やして屋内に向かうべきなのは明白だ。
カラカラ、ガチャガチャと喧しい、肉を亡くした骨だけの何かが獲物を見つけた蛇のように首をもたげた。
そして、撃ち出されたように一直線に肉薄する。
体勢を低くして、鞘を払う勢いのまま上へと薙いで骨を散らし、次の敵が迫る前に建物内に入るためにその方向へと足を向けた。
肩の烏はいつの間にか飛び去り、じりじりと隙を見せぬように辺りを見回しながらゆっくり移動する度に玉砂利が鳴る。
遡行軍は、動かない。得物すら構えず、ただ私を見ていた。
そこで、気付いた。気付いてしまった。
奴らが私に注ぐ視線は敵意ではなく、好奇であると。
理解できない。私は紛れも無く政府の人間で、故に奴らの敵である。弱い上に風でろくに動けもしない敵を、何故殺さない。
「──なるほど、確かに強い。」
不意に、この場ではするはずの無い声がした。
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作者名:セネン@30分クッキングin備中国 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年12月26日 1時