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あれから2ヶ月。体調の回復した私は本丸にいた。

いつもとは違って、特に何の変哲もない、普通の本丸。
普通とは言っても、建物自体は広くとも酷く損傷しており、とても人が住める状態には見えないが。

春の初めのような麗らかな日差しに爽やかな微風、茂る青葉。日常の景趣は心地好く過ごせるように設計されているのだろう。
この雰囲気が、まさに本丸の普通なのだ。
瘴気も、敵意の籠った視線も無い。

建物に関しては上がどうにかすると言っていたので、まぁ私の預かり知れない手段でどうにかするのだろう。

そして、なぜ私がここにいるのか。

それは新居が瘴気にまみれていた場合に燃やす為である。

いくら前情報でそれは無いと言われていても、住むとなれば念の為確認しておきたいのは仕方の無いことだと思う。

ひとしきり辺りを見回して、屋敷の中を見ようとその方へ足を踏み出した瞬間だった。

やけに湿度の高い風が、頬を撫でた。

ぞわりと身の毛のよだつ生暖かさに嫌なものを覚えて、脇差の柄に手をかける。
普段対峙している絶対的な脅威による威圧感ではなく、無数の視線の前に晒されているような緊張感と、ふつふつと湧き上がる漠然とした怒り。
それがどこから生じているのか、何に対してなのかは皆目見当もつかないが、少なくともこの状況が良くないものであるのは確かだ。

降り注いでいた柔らかな日差しが遮られ、空を見上げれば、厚い鉛色の雲が空を覆い尽くしていた。
低い雲底には自然には有り得ない穴が無数に開き、この現象が何であるかを私に知らしめる。

「時間遡行軍……!」

実際に見るのは数回であったであろう、この戦争の真の敵が現れる時の予兆。

微風はやがて台風のような激しさとなって、髪と服の端を巻き上げた。

下手に動けばバランスを崩しかねない状態だというのに、どこからともなく飛んできた烏が肩に止まってけたたましく鳴く。
恐らく本部からの帰還命令なのだろうが、とても身動きが取れるような風ではない。

やがて稲光が玉砂利の庭に落ちて、それらは本丸に降り立った。

赤、青、そして緑の不気味な光と、煙のように立ち上る瘴気を伴ってこちらを見据える無数の目。

薙刀、槍、大太刀、太刀、脇差、中脇差、短刀、苦無、そして、黒い渦を纏う打刀。

年末の戦闘で初めて確認されたという、"濁"と呼称される打刀の特殊個体で違いないだろう。

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作者名:セネン@30分クッキングin備中国 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年12月26日 1時

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