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そうしてどうにか休養室に辿り着き、這うようにして水場に向かう。

冷たい水は掛け流しとなっており、腕を動かすのも億劫な私は、着衣のまま水場に入り、足を投げ出して壁によりかかってその水を頭から浴びる。

「ふぅ──」

祝詞を唱えなくとも、清められた水を浴びるだけで多少は体が楽になったような気がする。

締め付けられるようだった心臓は正しく脈を打ち、割れるようだった頭は、殴られたような痛みまで遠のいた。

ぼうっと天井を見て息をつき、また生き延びられたことに安堵する。

私達は国津罪を犯し続ける。今身を置くのが戦禍である以上避けて通れず、血と死の穢れからは逃れられない。人でなくともそれは同じ。

刀剣男士も、彼らを従える審神者も、我々も。

穢れは身の内に蓄積し、許容量を超えると身体・精神に異常を来す。それは鬼化、狂化、更にはその果て、蠱毒など多岐に渡り、ブラック本丸で度々報告される、いわゆる闇堕ち刀剣男士はそうして生まれる。

当然の事ながらそれらは多大な苦痛をもたらし、時に死に至らしめる。

体の内側から無数の錆びた刀の破片によって貫かれ、見るも無惨な姿となった美しい人、仲間であるはずの刀を全て破壊して尚止まらず、領域に踏み入ったことごとくを呪うようになってしまった刀剣男士、そして、人々の罪を背負って永遠の流刑となった人。

痛ましく、悲しいことだ。

余計な事を考える余裕が出来たところで、体勢はそのままに祝詞を唱える。
今日に至るまでに幾度となく唱えたそれは、何も考えずとも自然と口をついて紡がれる。

初めの頃は、耐水紙に書いた祝詞に読み仮名をふったものを読んでいたっけ。

「掛けまくも畏き伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に、御禊祓へ給ひし時に生り坐せる祓戸の大神等、諸の禍事・罪穢有らむをば、祓へ給ひ清め給へと白す事を聞食せと、恐み恐み白す。」

あの本丸は、ひどく瘴気に満ちていた。それを霊力と入れ替え、男士達が抱えていた穢れを取り込んだのだから、こうなるのも必然と言える。

同胞達はもういいと言うが、霊力量と瘴気耐性しか取り柄のない私は、前線に立ち続けるしかない。

身一つで境界を超えることも、あまねく烏と視界を共有することも、政府側との均衡を保つこともできない。後ろに控えている理由がない。

私にできるのは、ただ穢れや瘴気を霊力を消費して焼くことだけ。熱を持たない炎ではあるが、消費霊力があまりにも多く、割に合わない。

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作者名:セネン@30分クッキングin備中国 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年12月26日 1時

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