ブラック本丸を潰すだけの簡単なお仕事 (ページ25)

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「それは無理じゃないかな。彼女はどこの誰かも、味方であるかも分からない。そんな人間について行かせるわけにはいかないよ。」

「だがあの人……鹿葦津(かやつ)は『好きにするといい』と言った。俺はその通り、好きにさせてもらう。」

無茶苦茶だと思った。その言い分では、離反ともとられかねない。

だが、彼が口にした「鹿葦津」という名は、それ以上の衝撃をもたらした。
かやつ、かしつ、かあしつ。読みの違いはあれど、それらは全てとある神階正一位の一柱を指す。

「薬研、その名は……彼女がそう言ったのかな？」

「あぁ。前にあった時も、確かにそう呼ばれていた。」

鹿葦津、即ち鹿葦津姫、木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)。

国津神の一柱、繁栄と短き命の象徴。

だが、それではおかしい。
第一に、大神達はこの戦には関与せず、静観を貫いていると聞いた。
第二に、本当に神であれば対峙すれば即座にわかるが、彼女からその気を感じなかった。
第三に、現代において、刀剣男士を除く神は実体を持たない。

彼女が人間であることは間違いない。
その上で、あの霊力と術は並の人間を上回る。

それらを考慮した上で考え得る可能性は、神を騙る人間、人の皮を被った神、神と人の子、或いは──

「──神憑り」

そう口にした瞬間、全ての音が消えた。

温かな微風に、花が舞う。

その咲き誇る下で、烏が嘴を開いた。

刹那、耳元で風が裂けた。