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「──お前が知るべきことでは無い。」
ひたり、背後から首筋に刃を添えられるような冷たい威圧感。
一瞬にして全身に鳥肌が立ち、そこにいるのが只者ではないと分かりながらゆっくりと振り返ると、そこに居たのは小柄な女性だった。
顔は複雑な紋様の面布に隠されて窺い知ることは出来ないが、その声のように冷ややかなものであろうことは想像に易い。
「お、戻ってきたか。」
「戻りたくて戻った訳では無い。さて──」
薬研の軽口をあしらって、広間を見渡すように頭を動かす彼女に、跪いたままの男士達は警戒の色を強め、一方で、短刀達は真っ直ぐな眼差しを投げかけていた。
跪く彼らからは人間への怒りや恨みもそうだが、それを上回る畏怖を感じる。
その反応を見て、彼女がこの事態を引き起こした張本人だと確信した。
「そろそろ解いてはくれぬか？ 流石に足が痛い。」
「数時間前の自分達の行動を鑑みてから言え。私は忘れ物を取りに来ただけだ。山姥切長義、この場は任せる。」
鋭さのない三日月の言葉に対して、温かみの欠片もない返答をした彼女はすれ違いざまにそう言って、薬研から脇差を受け取ると、この場の全てに興味を失ったらしい。
外れた障子の向こうにある空間の裂け目の前まで迷いなく進み、「あぁ、そうだ。」と何かを思い出したように半身だけ振り返る。
「1時間後、この本丸は破棄される。それまでに退去することを勧めるが、まぁ……『好きにするといい』。」
最後の言葉に違和感を覚えたが、声をかけようと思った時には既に彼女の姿はなく、代わりに跪いていた周囲の男士達が床に伸びる姿が目に入った。
そこでようやく、言霊を解かれたのだと理解する。
そもそも術をかけられていないのであれば、違和感しか感じないのは当然のこと。
「何なんだあの女は！！」
「うるさいですよ。傷に響くのでやめてください。」
「ちっ、久々に戦えると思ったのによ。」
「やめとけやめとけ。」
「あぁ、腹減ったなぁ……。」
急に騒がしくなる広間。この声だけを聞けば、いつもと変わりない仕事なのだが、やはり先程の女性のことが気がかりだった。
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作者名：セネン@30分クッキングin備中国 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年12月26日 1時
