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切れた手のひらに適当に布を巻き、いつの間にか姿を消したこんのすけは放置して広間へと戻る道すがら、まだ僅かに揺らめきの映る視界で次の手を考えていれば、不意に袖を引かれる。

正直、この本丸に来てからの諸々の疲労のせいで少し虫の居所が悪い。今は放っておいて欲しい。

それを顔に出さないように後ろを振り返れば、すっかり傷の癒えた短刀達が神妙な面持ちで私を見ていた。

「あ、あの! 」

「うん? 」

「手入れをしていただき、ありがとうございました。……あと、いち兄のことも。」

彼等はきっと、兄が私に折られたことを分かっている。
分かっていて、何故私に礼を言うのだろう。

理解ができない。大切な身内だろうに。

「……あぁ。」

生返事を返すと、袖を引いていた五虎退が私の手を見て、体を強ばらせた。

「あ、血が……!」

つられて手を見れば巻いた布には血が滲み、滴りこそしないものの、完全に止血できていないのは一目瞭然だった。

じくじくとした痛みもあるが、刀を握るのに支障はない。

「この程度なら何てことはないから、お前達はまだ休んでいろ。私はまだやることがある。」

「大変申し上げにくいのですが、広間の皆様の怒りは深く、鹿葦津様のお言葉は……届かないかと思われます。」

「分かっている。」

本丸に上がり込む際の私の行動のせいもあるだろうが、言葉が通じるのであれば、言霊を使わずに済んでいる。

そもそも、我々に回ってくる仕事で関わる男士とは対話できる方が少ない。言葉が届かないなど、今に始まったことでは無いのだ。

「とにかく、私の心配は不要だ。お前達は身の振り方を決めておけ。」

刀解でも、譲渡でも。様子を見るに、破壊を望む者がいないように見えるのが幸いか。

袖を掴む五虎退の手をやんわりと外し、短刀達に背を向けて元の進路へと戻る。

彼等が何を選ぼうと、私には関係ない。
私の仕事は、譲渡を選んだ男士達の顕現を解き、部署に戻るまで。決して無責任な訳では無い、ただ管轄外なだけである。

情が移ってはならない、情を持ってはならない。
それらは全て枷となって、すべきことを妨げる。

仕事をこなせない神憑きに、存在価値などない。これ以上彼らと関わってはならない。

足を進める度に軋む床板を睨んで、細長く息を吐く。

切れた頬と手が、燃えるように熱い。
その痛みのおかげで、思考がまとまらない。

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作者名:セネン@30分クッキングin備中国 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年12月26日 1時

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