ブラック本丸を潰すだけの簡単なお仕事 (ページ16)

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政府某施設の端の端、余程の方向音痴ですら早々には辿り着けない場所にある部署の中、窓から最も遠い、日の当たらない席。

机に肘をついて目を閉じる1人の男の姿があった。

伏せられたまつ毛は長く、艶のある黒髪は無造作だが清潔感が失われないレベルで整えられている。
その一方で肌は不健康なまでに白く、その白さが目の下の黒さをより引き立たせた。

男の異称は八咫(やた)、特対発足時からの数少ない生き残りであり、現場の実働班を背後から支える優秀な軍師だ。

そして、何の捻りもない熊野の三足烏の神憑きである。

眠っているようにも見える彼だが、彼が眠るのは基本的に自分の部屋のみ、部署内で目を閉じているのは偏(ひとえ)に｢視ている｣からである。

普段、この状態の八咫に話しかけるような無神経な者はいない。八咫もまた、全て視届けるまでそれを止めることはない。

しかし、この日は違った。

｢──ほう、ここか。｣

門扉を叩かずに、部屋の内へと踏み込む者がいた。

有り得るはずがない訪問者に、最も入口近くにいた神憑きの女が瞬時に刀を抜いて、その首元に突き付ける。

その間、僅か数秒。

｢ここは関係者以外立ち入りを禁じています。お引取りを。｣

｢そう逸るな、お前さん達を害しに来た訳じゃあないんだ。｣

緊迫した空気には不似合いな、鷹揚とした声で来訪者は女を見る。しかし彼女はさらに刀を強く握って、今にもその首を落とさんと刃を喉仏に当てた。

来訪者はそれを意に介さず、視線を部屋全体に移す。

挑発していると思われても仕方の無い行動。
実際はそんな意図は無いのだろうが、と女はそう分かっていながらも声音を下げる。

｢ここで死ぬか、全て忘れて帰るか、お選びください。｣

彼等は戸籍を持たず、政府内の一部の者しかその存在を知らない、生きた機密情報とも言える存在。
知られる事で余計な所からの干渉を受ける他、精神的安定を揺るがす故に、こういった脅迫めいた行為も認められている。

機密保護の為と、即座に斬り捨てられていないだけまだ優しいと言えるかもしれない。

｢夷鳥(ひなどり)、いい。俺が対応するから、お前は俺の席で見てやってくれ。｣

その声に、来訪者と夷鳥と呼ばれた女の視線が同時に声の主を見る。

そこに立っていたのは、他でもない八咫だった。