【短編集】誰かと甘いひとときを【仮面ライダー・戦隊】 (ページ41)

今日:79 hit、昨日:17 hit、合計:85,170 hit

2028:貴方と刻む時間【時王/ソウゴ】ページ41

ここはクジゴジ堂。名前でわかるように、しがない街の時計屋さん。

私は、お店の中の特に陽の当たる席で、もう何回読んだかわからない本のページをめくっていた。

カタン…と子気味のいいドアの音が転がる。

「あ、おかえりなさいソウゴ。」
「ただいま、あなた。今日も読んでるの？その本。」

私は、まぁねと一言だけ返してまた本に戻る。ソウゴは私の隣の席に掛けたようだ。

「あなたってさ、未来人って感じしないよね。ほら、今も本読んでるしさ。」
「別に未来人が本を読まないわけじゃないわ。ソウゴの周りにいる人達が変わってるだけ。」

そう言うとソウゴは、たしかにと笑った。

私はこの何気ない時間が好きなんだ。なんにもなくなんでもない、普通の時が流れる「いま」が。

「いつか、さ…。いつか…あなただって自分の時代に帰る日がくるんだよね。」
「どうしたの？急に。そんなこと聞くなんて。」

普段の明るいソウゴからは思いもよらぬほど、弱くて泣きそうな声。

ふっと顔をあげると、ソウゴはまっすぐ私を見ていた。

「俺さ、なんかよく分かんないけど…このままあなたがいなくなっちゃうのは嫌だ。」
「そっか…。」

「ごめん、こんなこと言ったってあなたは未来に帰るって、頭ではわかってるんだけど…。困らせてごめん。」

ソウゴも、自分の中で芽生えた感情の名前が見つからないみたいで。私は、私のことで思い悩んでくれるソウゴが、なんでかたまらなく愛おしかった。

「多分、帰らないわ。」
「え？で、でも…。」

モゴモゴと口ごもるソウゴに、自分の本を押し当てる。

「今ここで下した決断が、巡り巡って今の私を作ったのよ。だから、きっと間違ってない。」

ね？とソウゴに笑いかける。私はこんな日を毎日過ごしたいんだ。穏やかに続く今日みたいな日を。

「さ、たまには私がご飯作ってあげる。ソウゴも少しは手伝って？」
「あなた、料理できるの？楽しみ。」

本を机に置いて、ソウゴの背中を押しながら食卓へ進む。

読みかけの開かれたページが、窓からそよぐ爽やかな風にめくられる。ぱらぱら、ぱらぱらと。

最後の1ページに記された文字を知るのは、きっと私だけ。

『2028年、6月。最愛の妻、あなたへ。
____常磐ソウゴ____』