一方 ページ24
「…リヴェ、」
「ぇ、あっ……」
場所が変わったせいで、分かりやすく困惑して油断している彼女の手を、私はそっと取って手のひらを見る。
そこには、綺麗な自分より小さな手。
刃を掴んで付いた筈の傷なんて、どこにも無かった。
「ぁ、あのっ…」
最初は放してもらおうと手を引っ張っていたリヴェだけど、私に傷が治った手をしっかり見られたのが分かれば、諦めたようにすっと力を抜いた。
「…これ…、…ごめんなさいね、でも、どうもおかしいと思って」
痛がったり片手を気にしたり、庇う様子もなくて、挙句の果て怪我した筈の手で洗い物なんてしたがるものだから、不思議に思ってほんの出来心で見てみたはいいけれど、まさか跡もなく完全に治ってるなんて思わなかった。
もしこっそり魔法薬を使ったって、跡もなく一瞬でここまで治るなんておかしい。
…おかしいけれど、別に今はそれをどうこう言ったり、何かするつもりは無い。
大体、この世界じゃ人間より治癒力がずっと優れている人外だって、珍しくない。私が勝手に、ごく普通の人間だと思い込んでいただけ。
傷があったであろう場所を静かに撫でてから、掴んだ彼女の手を放した。
リヴェはおどおどとゆっくり手を引っ込めて、困惑ぎみの目で私を見上げる。
「こ、れは……その、」
「別に、怒ったりだなんてしないわ？ちょっと気になってしまっただけなの、何もしないわ」
目を伏せてあわあわと言葉に詰まるリヴェの頭をそっと撫でて、微笑みかける。
「んゅっ……」
そうするとびく、と少し怯えたような反応をして、首に巻いたストールを両手できゅ、と掴んだ。
まるで、せめてこのストールの中だけは見せたくない、と言ってるみたいだった。
「…今回は、ちょっと買い出しを手伝ってもらいたかっただけなの」
「…は、はいっ……」
本来の目的を告げながら撫でる手を止めれば、少しずれた彼女の帽子を整える。
「そうだ、場所が突然変わって驚いたでしょう、移動しながら説明してあげるわ。ゆっくりお話しながら行きましょ」
本当ならその行き先にもすぐ行けるといえば行けるんだけれども、コミュニケーションも大事だろう。
それに、あの¨リタリエ¨と名乗っていた奴。あいつはリヴェと何か関わりがありそうだった。それについても何か聞きたい。
1人で言って1人で歩き初めてしまったけれど、ちょっとすれば「気になりますっ…」と声が聞こえて、付いてくる足音が聞こえた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 39人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
緑 - 紅楓さん» そう言ってもらえるととても有難いです！コメントありがとうございます、これからも頑張りますねっ (2020年5月12日 16時) (
レス) id: 8fad606fce (このIDを非表示/違反報告)
紅楓(プロフ) - 面白いです！作者様のペースでいいので、更新頑張ってくださいね！ (2020年5月12日 9時) (レス) id: 082dab1426 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - 緑さん» いえいえ、コメント欄に大変失礼いたしました。 (2019年11月4日 22時) (レス) id: 638a835745 (このIDを非表示/違反報告)
緑 - 二次創作を書いていたつもりはないので今もフラグを立てていますが、何かあればまたコメントしてくれると有難いです、ゆりりんさんもわざわざコメントありがとうございますっ (2019年11月4日 16時) (レス) id: 8fad606fce (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - 緑さん» こちらオリジナルで大丈夫ですよ…？ (2019年11月4日 2時) (レス) id: 638a835745 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黒夜 緑 | 作成日時：2018年9月2日 18時
