藍の海 ページ10
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｢究極の愛とは、なんやろか。憎さも愛嬌と笑んで全てを赦し受け入れること。それとも⎯⎯⎯｣
貴女のためにとこの命を燃やし尽くすこと。
男はうっそり、色艶のない唇を吊り上げる。男の持つ藍の瞳に囚われた少女は今しがた押しつけられたのであろうなでしこを腕に抱き、目元に紅を浮かばせているではないか。
｢貴女が僕の頬につい咲かせた愛らしい椛も愛嬌と笑いましょう。そして僕の命はちっぽけではあるけれど⎯⎯⎯い゛っ！！？｣
なれば、私の咲かすもう一輪もあなたさまは愛いと笑むのでしょうか。
男と少女の様子を傍目に見ていた私はがつ、がつと品もなく大股になって洋靴の踵を鳴らし、つい、出来心で。団子屋の軒下で鼻の下を伸ばすその男の頬にバチン！ と、容赦のない平手をお見舞してやったのです。
｢……鬱さま。昨晩はぐっすり眠られていたようですのに目を開けながら寝言だなんて、まだまだ睡眠が足りておられないとみえますね｣
｢っあ、Aちゃん、ちゃうねん、これはその｣
｢言い訳無用にございます。ほら、貴女。早くおいきなさい。阿呆が移りますよ｣
両頬を抑え込んで狼狽える男⎯⎯⎯鬱さまをキッと睨んだ少女は彼になでしこを突き返し、フリルのあしらわれたエプロンを摘んでぱたぱたと店奥へと消えてゆく。じっとり、隣から注がれる視線をわたしは鼻で笑い飛ばしてやった。
｢あーあ、Aちゃんのせいで逃げられてもうた。あの子顔真っ赤にして…絶対俺に気あったんに｣
｢誰が見てもあれは怒りを堪えて爆発寸前、といったお顔でしたよ。随分と執拗く迫ったようで｣
｢可愛かったなぁ｣
｢まだ寝惚けておいでですか？｣
｢ふたり分の平手打ちで頭は冴え渡っとるよ、さすがに｣
にへら、と笑う彼に反省の色はない。全く本当に困った旦那さまである。あっちへふらふら、こっちへふらふら。少し目を離すとこれだから、おちおち買い物も出来やしない。
｢いっそ、縄に繋いで引き摺りましょうか｣
｢そりゃ勘弁。ところで、このなでしこは誰より君に似合うと思わん？｣
｢花に罪はありませんが、癪に障りますね｣
｢つれへんなぁ、ほんま｣
つれてなるものですか。だって、あなたさまはわたしの腹の底を知らないでしょう。見知らぬ女に与えんとした愛らしさの象徴たる花をわたしへと差し出し笑む鬱さまに、憎悪にも似た感情を覚えひた隠しているなど、きっと彼は気づかない。 余所見をしてばかりいる鬱さまには。
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野々宮蓮花(プロフ) - 唐揚げさん» こんにちは。コメントありがとうございます！そう言って頂けてなによりです。まだまだ沢山の作品が続きますので、引き続き楽しんで頂けたら幸いと存じます。どうぞよろしくお願いします！ (2021年1月25日 20時) (
レス) id: 720637d64b (このIDを非表示/違反報告)
唐揚げ(プロフ) - どの作品も少しドキドキ？しながら読ませていただきました。ut先生オンリーということで似たような作品が並ぶのかなぁと思いましたが、バリエーション豊かで楽しかったです。 (2021年1月25日 19時) (レス) id: 6975836a4f (このIDを非表示/違反報告)
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