＊ ページ27
「大、先生…っ！」
「んあっ、A！？」
敵を蹂躙しながら駆け続ける。今にも敵に首を斬られそうになっている彼の姿はこれでもかというほど目が見開いていて、なんだか面白いぐらいだ。ナイフで人の肉に突き立てる、そんな私の戦い方はきっと汚く悍ましいものだ。でも、今は…苦手だと思われたって構わなかった。…汚いと言われたって構わなかった。
返り血が目に入り、視界が阻まれる。それでも振り回す手は止めるわけにはいかない。
「後ろや…！」
彼の言葉に前の見えぬままその指示に従い、ナイフを振るう。ぐさりと、相手に刺さる感覚だけが妙に生々しくて伝ってくる。相手の怯むその一瞬を見逃さず、私は片手で右目を拭った。残り、数人。私の体力ではギリギリというところだ。
「くそがぁ！」
一瞬の隙をついて、ナイフを突き立てたはずの男が渾身の力で私の鳩尾に蹴りをいれる。防ぎ切ることは出来ず、簡単に吹き飛ばされ咳き込む。
「ｶﾞﾊｯ…ｺﾞﾎｯ…」
「A、はよ逃げぇ！この人数差はさすがに不利や」
「だっ、て…大先生、死ぬ気でしょ」
その言葉に否定はない。痛む場所も胸の痛みに比べればまだマシだ。
「命懸けで人を助けようとしないで。それも…死んでいいみたいな顔をして」
「顔はデフォルトやから仕方ないやろ！ってか、そんなことより…」
「大先生、聞いて」
私と大先生の話を大人しく聞く気もない男たちに、ナイフを突き立てながらに言葉を放つ。
「幸せになりたいなら、本気で"自分"の幸せを願って。偽善者に虫唾が走る、なんて言いながら大先生は周りを見過ぎてる。…あなただって、偽善者だよ」
私を助けて、気持ちよく死のうなんて甘い。
「欲深そうにみえて、誰よりも欲から手を離すのは早いくせに。でも、…わたしはね、そんな大先生がすき」
スローモーションのように敵が崩れていく。血濡れたナイフを捨て、新しいナイフを腰から抜けば、ぼとりと小さな箱が落ちる。ぐしゃぐしゃに潰された箱から中身が飛び出て、彼の足元に滑っていく。…その正体は、薔薇の紋章が刻まれた懐中時計だった。
「大先生こっから無事に出れたら、…私と付き合ってよ。私と同じ時を刻んで、生きて。
……私が、命を賭けて大先生を幸せにするからさ。」
さあ、一世一代の告白が何色になって返ってくるのか。命懸けの戦いがもうすぐ終わる。
縛られたまま唖然と言葉を無くす彼の顔にもう死はなかった。私は笑って、「返事」と駆け出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 53人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
野々宮蓮花(プロフ) - 唐揚げさん» こんにちは。コメントありがとうございます！そう言って頂けてなによりです。まだまだ沢山の作品が続きますので、引き続き楽しんで頂けたら幸いと存じます。どうぞよろしくお願いします！ (2021年1月25日 20時) (
レス) id: 720637d64b (このIDを非表示/違反報告)
唐揚げ(プロフ) - どの作品も少しドキドキ？しながら読ませていただきました。ut先生オンリーということで似たような作品が並ぶのかなぁと思いましたが、バリエーション豊かで楽しかったです。 (2021年1月25日 19時) (レス) id: 6975836a4f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
