えいえんにきみとしあわせになる方法 ページ21
「…………来たのね、」
その日何十年かぶりに聞いた足音に、少しだけ胸が踊ると共に、悲しくなった。
長い石階段を上る音。踵を鳴らす音。段々と大きくなる足音と、"彼"の息切れた呼吸音。少し曲がった腰と、見慣れない洋装にくすり、と扇子の向こう側から笑って見せた。
「……あぁ、いつ見てもべっぴんさんやなぁ。」
へらり、と笑った彼の表情はいつものように暗い。黒を落としたかのように暗く、底の底まで落ちきった絶望が隠しきれないような雰囲気を纏っている。
嗚呼、またあなたは、生きることを諦めてしまうのね、鬱。
「……どうして何時もここを思い出してしまうの？」
「なんでやろなぁ、」
「また同じこと繰り返すなんて、どうかしてるわ。……ここに参拝しに来る人間も、とうの昔にいなくなったと言うのに、あなたはいつの世もここに来てくれる。」
それがもう馬鹿らしくて、愚かで、仕方が無いの。
私がなんのために神になったのか、その目的すらも、私は忘れてしまいそうになる。
ぐ、と唇を噛み締める私を他所に、彼は葉巻に火をつけて吸い始めた。ひしゃげて平らになった箱から出てきたそれが最後だったらしく、空き箱を投げ捨てた。
「……境内は綺麗にしてくれないかしら、」
「俺に厳しいとこは変わらんなぁ、」
「…………あなたが同じ事をするからでしょう。」
隣に座る。彼の靴はもうそこがすり減っていて、靴としての役割を果たしそうにもなかった。頬にできた暴行の痕、目の下の隈、私が様子を見た時とは打って変わって、やせ細ったその体は健康体とは呼べない。
「………今回は上手くいくと思ったんやけどなぁ、」
「……」
「……1つ攻略したら、ちがうものに妨害されんねん、前は親父やったやん？今度は母親や、俺の名前勝手につこて借金作って逃げおった。」
「そしたら次は知らん間に不倫相手にされとって慰謝料請求されるしクビにされるし、もう、なんなんやろなぁ……厄祓い、欠かさんかったのに。」
「………………」
「俺はいつになったら幸せになれるんやろ……？」
ぼろぼろと泣き出した彼の背中は、あの時からもう触れられない。この因縁が生み出した関係と彼の運命に、私はどうにかしようと抗った。抗ってみたのだ。2度目も3度目も4度目も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、"鬱先生"という人間に、生を与えた。
けれど彼は、その度に、不幸しか抱えられなかった。
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野々宮蓮花(プロフ) - 唐揚げさん» こんにちは。コメントありがとうございます！そう言って頂けてなによりです。まだまだ沢山の作品が続きますので、引き続き楽しんで頂けたら幸いと存じます。どうぞよろしくお願いします！ (2021年1月25日 20時) (
レス) id: 720637d64b (このIDを非表示/違反報告)
唐揚げ(プロフ) - どの作品も少しドキドキ？しながら読ませていただきました。ut先生オンリーということで似たような作品が並ぶのかなぁと思いましたが、バリエーション豊かで楽しかったです。 (2021年1月25日 19時) (レス) id: 6975836a4f (このIDを非表示/違反報告)
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