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今夜の鬱さまはえらく上機嫌であった。台所に立っていれば背後からわたしを抱きすくめて｢新婚さんみたいやなぁ｣なんて冗談を言うし、わたしの手料理を頬張る彼は幸せそうにその味を噛み締めていた。日もすっかり落ちた頃、お庭へと手を引かれてふたりで満月を見上げたりもした。その時に見た彼の横顔はやはり幸せそうで、いつの間にやら結びあっていた指先に鼓動が鳴り止まない。
彼が幸福に満ちた顔をするから、隣にいるわたしも幸せで。ほら、こんななんでもないような一日の中で拾った幸福を抱いて眠る夜の心地といえば格別でしょう。
少しでも同じ気持ちでいてくれたなら、わたしは本当に、幸福者にございます。
｢……うつ、さま｣
｢ふふ、眠たくなってもうた？｣
御屋敷の縁側でふたり、肩を並べてぽつり、ぽつりとたわいもない会話をしていた。穏やかな声は段々と子守唄へと変わり、わたしはうつらうつらと船を漕ぎ始めて、彼がおもむろに肩を抱くから寄りかかる形で目を閉じる。
細い指が髪を撫でるのが擽ったくも心地良い。冬の冷たい風は昇った体温には丁度良くて、ああ、もうだめだ。眠くって、堪らない。
｢……な、Aちゃん。あと一分だけ、時間をくれへんか｣
｢じ、かん、？｣
｢そう。寝てもうたらもう、全部、終わりやから｣
なにを、いっているのだろうか。 酷い眠気のせいか、やけに重たい身体を何とか起こそうとしたが、どうしてか。足に、腕に、力を込めてもそれは床を通じてするりと抜けてゆく。少しだけ、空気が薄いようにも感じる。ずぶり、すぶり。身体が勝手に底へと沈んでいくような感覚に襲われて目を見開いた。
｢う、つさま…？｣
｢喋らんで、ええよ。ただ静かに…おれのこえ、きいとって｣
目と鼻の先に艷めく藍が瞬く。そうしてひんやり、冷たい唇が重なり合ってふたりの声は呑み込まれた。すぐに離れた感触に夢でも見たか、なんてあっけにとられているうちに何処か苦しげに笑む彼がわたしを腕に抱き、そうして共に床へと身を転がす。
腕の中で顔を上げると、疑問を口にする前に再び唇を食まれて、藍に見られて、わたしの声は消え失せる。 どうして、こんなことを。そうは思っても二度、三度と重ねるうちに熱を持ったそれが思考まで溶かしてしまうのだから、今はただこの説明しようがない幸福を夢心地の中で静かに受け入れ続けた。
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野々宮蓮花(プロフ) - 唐揚げさん» こんにちは。コメントありがとうございます！そう言って頂けてなによりです。まだまだ沢山の作品が続きますので、引き続き楽しんで頂けたら幸いと存じます。どうぞよろしくお願いします！ (2021年1月25日 20時) (
レス) id: 720637d64b (このIDを非表示/違反報告)
唐揚げ(プロフ) - どの作品も少しドキドキ？しながら読ませていただきました。ut先生オンリーということで似たような作品が並ぶのかなぁと思いましたが、バリエーション豊かで楽しかったです。 (2021年1月25日 19時) (レス) id: 6975836a4f (このIDを非表示/違反報告)
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