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花咲き夢患い ページ24

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 君の心臓に、真白の花が咲いている。


「綺麗でしょ」
「……なんて言ったらええのか」
「なにさ、素直に綺麗だって言ってくれたらいいのに」

 ふらりと現れた彼女は顔を合わせるやいなや挨拶も無しに一枚のレントゲン写真を俺へ見せつけた。
 ⎯⎯⎯花が、咲いている。心臓からまるで、白いペンで書き足したような花の影が、伸びている。

 長年軍医として身を置いているが、心臓に花が咲くなど聞いたことも、見たこともない。驚きよりも先にこの写真が本物か否かを疑う方に思考が駆けた。

「出先の町で急に心臓が痛んでね、近場の大きな病院で撮ってもらったの。そしたらもう、びっくり!花咲いとる!って。先生もまあ驚いて、腰抜かしてたよ」
「なあこれ、」
「もちろん、本物だよ。でもどうして咲いたのかは先生も分からないって」

 病気なのかな?なんて、君がけろりと笑うもんだから、俺は素直にその花を受け止められなかった。悪戯好きな君のことだから。情けのない悲鳴をあげる俺を揶揄うのが昔から、好きだったから。きっと、これはなんてことのないドッキリか何かで。明日にはもう、俺をおどかそうとしたことすら忘れているに違いない。

「もっとたくさん咲くのかな。体の中、いつか花で埋もれちゃうかも」
「はは。えらい風情のある冗談言うやんか。似合わんなぁ」
「……ねえ、鬱。もし、もしだよ?本当にそんな日が来ちゃったら」


 ⎯⎯⎯その時は。綺麗だな、って、笑ってくれる?


 とうとう言葉を失った。その、花の咲いたような笑顔がおかしな真白の花を冗談めかすというのに、彼女が吐き出した声が酷く細かったせいで。
 何とか絞り出した「ほんまに、冗談やんな?」と、問う声が震えた。彼女は、Aはまた表情に花を咲かせる。言葉は返ってこなかった。胸奥に生まれ蠢いた恐れに、固く、目を瞑る。





 あの花を見たのは昨晩のこと。妙な胸騒ぎが脳を眠らせてくれず、結局日が昇るまでひたすらに医学書を読み漁った。
 ない、ない。どこにも、心臓に咲く花の前例などない。それならやはり、Aのつまらない冗談だったのだろう。そう、言い聞かせ。

「ねえ、鬱。見て。右目に花が咲いちゃった」
「……は、?」
「やっぱり綺麗な花だったね。真っ白なの」

 カルテを片手に眠気に抗うことをやめようとした正午。またふらりと現れた彼女は片手で右目を抑えていて。そうして開かせ見せたのは、右目に咲く真白の花だった。



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野々宮蓮花(プロフ) - なななさん» 一緒に楽しんでいただけてとても嬉しいです。そう言って頂けて、企画主冥利に尽きます。こちらこそ最後までお付き合いくださりありがとうございました…! (2020年9月21日 4時) (レス) id: 720637d64b (このIDを非表示/違反報告)
ななな(プロフ) - 主催者さまはじめ、執筆を担当されました作者さま、素晴らしいお話の数々本当にありがとうございました。いつまでも続けばいいのに、と思うほどの素敵な作品しかなく胸を打たれる毎日でした。 改めまして、お疲れ様でございました! (2020年9月21日 0時) (レス) id: 547b684aec (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:かみさま x他3人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年9月18日 0時

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