ポップコーンが食べたい─2 ページ8
.
「んっ……」
「あれ、起きた?」
顔を隠しているみたいだったから、あえてフードは被せておいた。
俺の声を耳にした瞬間、肩をびくっと揺らし、フードの下から俺をそっと見上げてきた。
「大丈夫だよ。誰もいない。俺もなにもしない」
俺の人生の中で比較的優しく声をかけた方だった。
それなのに『蜂』は驚いた勢いで立ち上がり、隠し持っていた折りたたみ式ナイフを俺に向けた。
「誰……お前」
「高木、雄也。ここの組員」
「俺が誰だか分かってんのか」
「『蜂』でしょう?……いや、“『蜂』さん”の方がいいかな?」
ナイフを向け小刻みに震えている左手を掴むと、目を見開いてそれを落とした。
床に打ち付ける金属音が、雨音に掻き消された。
「は、なせっ」
「手当はしないと。特に顔は、他の人からもよく見えるから」
「こんなの。……放っとけばそのうち──っ!」
軽く頰を抓ってみると、想像以上に痛かったのか、俺の手を強く引き剥がした。
「おっと。……ほら、痛いじゃん」
行くよ、と先を歩いていると、やがてトボトボと歩幅の狭い足音が聞こえてきた。
なんだ。意外と素直。
「どこ、行くの」
「ん?誰もいない場所だよ」
俺なんかやろうと思えばすぐ殺せるだろうに、行儀よく着いてくる『蜂』。
比較的人通りの少ない道を通って帰ってきたから、組の人達とは誰一人として会わなかった。
「はいここ。俺の家」
どうぞ、“『蜂』さん”。
渋る背中を押して、強引に中に入れた。
「“『蜂』さん”。なんか飲む?コーヒーとお茶と水と……あ、コーラもあっ──」
「『蜂』でいい」
え?と聞き返せば、冷蔵庫まで態々歩いてきて俺に言い聞かせた。
「『蜂』でいい。どうせ護衛の中の一人だろ?どういう呼び方であれ不自然には聞こえづらい」
「じゃあ、『蜂』。なにがいい?」
「水」
「了解」
なにも気にせず上がってもらったけど、薮くん怒っちゃうかな。
こういうの結構敏感なんだよね。
この前なんて裕翔を家に呼んだ時、「違う人の匂いがする」って浮気を疑われたんだから。
そんなことする訳がないのに。
「早速手当するから、そこ座って」
水をグラスに注ぎ、俺のと二人分、テーブルに運ぶ。
しかしまだ『蜂』は立ったままだった。
「座らないの?」
「……だって、」
「ん?」
俺は予想だにしていなかったその言葉に、驚きを隠せなかった。
「服の所為で、椅子が汚れたら嫌」
.
205人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柊(プロフ) - みるみるみるきーさん» コメントありがとうございます!!!まさかまさか、みるみるさん(私が勝手にそう呼んでいます。すみません)からコメントを戴く日が来ることになるとは……!騒いでいただけるなんて、感激です!早く更新します!ありがとうございます!頑張ります! (2020年9月13日 23時) (レス) id: 9a230f5c32 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - 初めまして。《ミントな君に祝杯を》をから一気読みしてしまいました。いろんな人がいろんな形で絡んでいて、え?あら?そーなの?うわー!と、ひとり騒がしくしながら読み進んでいました。更新、楽しみにしています。 (2020年9月12日 19時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:柊 | 作成日時:2019年6月16日 15時