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Gib mir einen Kuss.─4 ページ16

yt side


「これ。前の、やつ」

「前のってさぁ……」

「他に、なんて言えばっ」

「まぁいいけど。前のが僕と『君』で違うものを思ってたら大変でしょう?」



でも……、なんて戸惑う『蜂』。

普段はこんなにオドオドした人なのにねぇ。



「それに、僕が愛用している秘密厳守の個室だよ?」

「それ、中島さんのバーのことでしょ」



愛用、っていうか自慢じゃん。


個室だからかいつもより緊張感も解れている。

クスクスと笑う『蜂』を眺めながら、渡された資料に手を伸ばす。



「いつもいつも、別にいいのに」

「情報を貰ってるのに、一方的なのは申し訳ないし……」

「当初はそういう予定だったでしょ。僕は殺してもらえるだけで大満足」



こういう時、『彼』は苦虫を潰した様な顔をする。

……いや、不快ではなくて不満なだけなんだろうけど。



「でも調べてるんですよね」

「それは高木くん。僕は興味がないから」

「……毎回、受け取ってくれるのに?」



それは善意だよ、と言おうとして止めた。

流石にこれは『蜂』に失礼かと思ったから。



「そういう『君』こそ、聞きたいことがあるって顔してるけど」



こういう不意打ちには弱い。

それはこうして会って、初めて学習したことだ。



「消しました、か?」

「え……、なにを?笑」

「あなたの故郷の、風習について」

「あぁ、そのこと」



なんだ。

高木くんはそんなこと言ってなかったんだけどなぁ。

バリバリ察してるよ?この子。


早く彼にも教えてあげないと。



「消したよ。頼まれたから」

「誰に?」

「それは言えないな。個人情報だから」

「じゃあ、もう一つだけ」

「どうぞ」



『彼』は不器用に微笑んで、僕を真っ直ぐ見つめる。

まるでなんの邪気も含んでいない様な、そんな瞳をしているから。



「あなたも、恋人には付けているのですか?」

「……まだ固いなぁ」

「あのシルシ。誰かを呪う、あの痛みを」



願う様な、そんな瞳をしているから。



「あれはね、『蜂』」



僕はつい、本音を喋ってしまうのだろう。



「呪うものじゃないんだ。あれはただ、離れたくない人に付ける、一種の合言葉なんだよ」



僕は今、上手く微笑んでいられているだろうか。



僕も高木くんも──
あの地にいた人なら誰だって経験するあの痛みを、

一度たりとも忘れたことがないのに。


.

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(プロフ) - みるみるみるきーさん» コメントありがとうございます!!!まさかまさか、みるみるさん(私が勝手にそう呼んでいます。すみません)からコメントを戴く日が来ることになるとは……!騒いでいただけるなんて、感激です!早く更新します!ありがとうございます!頑張ります! (2020年9月13日 23時) (レス) id: 9a230f5c32 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - 初めまして。《ミントな君に祝杯を》をから一気読みしてしまいました。いろんな人がいろんな形で絡んでいて、え?あら?そーなの?うわー!と、ひとり騒がしくしながら読み進んでいました。更新、楽しみにしています。 (2020年9月12日 19時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年6月16日 15時

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