iridescent clouds

ふらつく変拍子 ページ14

部屋で掛かっていたダフニスとクロエのCDが終盤の曲に差し掛かると、南雲君が少し迷ったように話を始めた。

「実は、犯罪に加担している。」

医療業界で中堂先生は有名人で、噂好きの人から件の事件について憶測が入り雑じった話を聞いたことはある。
中堂先生は未解決のその事件を調べるため同じ特徴を持った御遺体を探していて、依頼を受けた南雲君はそれを見付けては不正な検案を許し、見返りとして金銭を受け取っているという。

南雲君が一頻り話すまで、私は黙って聞いていた。
どう答えるのが正解か分からなかったし、真剣に話をしている彼はとても綺麗で今は受け取ることにのみ集中したいという考えもあった。


ややあって、南雲君は応えずにいる私の顔を覗きこみ、「ねぇ」と声を掛けてくる。

「信じた？」

何か返事をしようと口を開くと、遮るように、
「な訳ないでしょ。今日4月1日だよ。」
と可笑しそうに笑った。


「ああ。そっかぁ。」
「そんなドラマみたいなこと、ある訳ない。」
真面目に聞いちゃってAは可愛いねー、なんて言いながら南雲君は笑っているけれど眼鏡をかけ直して、瞳の奥を見せてはくれない。


「もし、そんなことが本当にあっても、Aは一緒にいてくれるのかな。」

独り言のように呟くから、「そんなの、実際にそうなってみないと分からないよ。」と私は精一杯の嘘を吐いた。

「嘘でもいいから、一緒にいるよ、って言ってくれたらいいのにぃ。」

軽い調子で言いながら、やはり彼は少し安心したようだった。
南雲君はきっと、赦されたがらない。


「分からないよ。」
もう一度言ったら、鼻先がじわりと熱を帯びる。
気付いているのか分からないけれど、彼は私の頭を撫でた。


一緒にいるよ。
嘘にしてしまいたいのなら、それが嘘だと信じるから。


「南雲君は、嘘なんて吐かないよ。」


そう告げると、彼はレンズを上げて困ったように笑っている。
見つめ返すと抱きすくめられた。
きっと今は顔を見られたくないんだろう。

大人しく頭を預ける。
いつか彼が、私が彼の全てを赦すことを受け容れてくれることを夢見て。

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