Time goes by ３

移ろう季節。１(2018) ページ6

Aside



最後にあった雨の日から、
１年半が過ぎた。
　
あれから、
神山くんの居場所さえ分からなくなってしまった。


ありがたいことに、
あのコンクールがきっかけで話題になって、
画家として、成功しつつある。


だけど胸の中はいつも隙間風が吹いてた。


もう一度、出会えたりしないかな。

そして、もう一度、私を好きになってくれたら・・・


ありもしない夢を見る。





年の瀬が迫った、クリスマスイブ。


美術館の仕事を終えて、
外に出たら・・・

木枯らしの中、
懐かしい顔が、壁にもたれて待ってた。

Pコートの襟を立てて、
寒そうに肩をすくめて。


「よぉ。久しぶりやな」


まるで時が止まってたかのように、
変わらない、無邪気な笑顔。


「重岡くん・・・
どうしたの？」


「なんや気持ち悪い。
重岡、呼び捨てにしてたくせに」


大毅って呼んでたのにな。

そこには、触れない。


「そうだったけど、
今は流石に大人だから」


私たち、３年も恋人同士だったのに、
それに、あんなひどい裏切りして、
別れたのに。

そんなこと、微塵も感じさせない。


「実はさ、話あって来てん。
寒いから、どっか入ろ。
今日ばり寒い。
凍える」


「うん」

急ぎ足に歩き出す重岡くんについて行く。


いつから待ってたのかな。


閉館から少し残業してたのに・・・

なんで電話かメールくれなかったんだろう。






急いでたから、
美術館の目の前にある、
蕎麦屋さんに入った。


しばらく無言で天ぷらそばに没頭。


「はあ。生き返る」


つゆを飲み込んで、
重岡くんがため息つく。


「鼻、トナカイみたいに真っ赤だったもんね。
いつから待ってたの？」


「お前。
変わらへんなあ。
俺には強気なとこ」


お前って呼ばれて、ドキッとした。

そんな風に誰かに呼ばれること、

今は全くないから。


「そう？」


「おお。
最初っから俺にだけ、
態度違ったやろ。
俺、それで、」


言いかけたのに、途中でやめちゃう。


「重岡くんには心許せたんだよ、きっと」


冗談にしたつもりだったけど、
うまくいかなかったみたい。


「そういうんは、ずるい・・・」

２→←１８

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す