第38話 籠の鳥 ページ38
.
手に収まるくらいの水晶玉が、甲高い音を立て粉々に砕け散ってしまった。薄暗い部屋に散らばる破片の1つを、顎にヒゲを生やした中年男が拾う。
とある王女の付き人である聖騎士を、魔術士が用意した遠距離からでも監視が出来る使い魔をとり付かせてしたのだが、無惨に殺され失敗に終わった。
しかしあの彼女を一目でも見れたからよしとしよう。
フッ と男の口角が上がった。
「やはり、七つの大罪といたか」
男には想定内だった。
指の腹で水晶玉だった物を転がし、空中に飛ばす。
男は身を翻すと、黒いレースで囲む一帯に歩みを進めた。
レースをかけ分けると大きなベッドがあり、その中心には一人の女性が眠っていた。
髪は長年切られていないようで腰の辺りまである。
まつ毛は長く、鼻は少し小ぶりで、淡い桜色の唇は薄め。彼女は仮死状態であるが、それでも生きてるように冴え、美麗の容姿をしていた。
男は彼女の頬に触れる。
「そんなに私に力を貸したくないのか……残念だよ」
思い出すように目を細め不敵に笑えば、長い髪をすくい上げ口付けした。
「だが、お前がその体で目覚める日は近いだろう」
――例えどんな手を使ってでも、な。
「……っ」
突然、ルノアールは胸を押さえた。
ドクン ドクン と脈打ち、燃えるように体が熱い。
足がおぼつかないまま、豚の帽子亭にいち早くつく。
店の中に入ろうとするが、中を抉るような傷みが襲いかかり動けないでいると、不意に視界が暗くなった。
「おかえり〜! 一人で帰って来たの?」
「………ディアンヌ」
「どうしたの? 何か顔色が悪いよ?」
心配な面持ちでルノアールの頬に触れようとしたその時、糸が切れたようにディアンヌの手の中に倒れこんだ。
「ル、ルノアール!?」
慌てて持ち上げて見れば、大粒の汗が額に浮かび、服の上から胸を押さえたまま気を失った、数少ない友達の姿。
どうしたらいいのかと辺りを見るが、生憎人けが無く、他に頼れる人と言えば同じ留守番をしているバンしかいなかった。
「バン! ここ開けて! ルノが大変なの!」
力加減で窓を叩くが、まったく返答がない。
イラッ と頭に来るものから堪らえつつ、ディアンヌはひたすら叫んだ。
「ちょっと聞いてるの!? って言うか起きてる!? ねぇバン、本当に大変な……」
――ガチャン。
401人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ