第32話 ページ32
.
「おいこら!!よくもこの看板豚を投げたなあぁ!!」
エリザベスを離れさせ、ルノアールは一歩足を退く。
すると二人の前を横切って行き、止まれないのかそのまま塔の壁に激突していったホーク。
痛々しい音と、後に豚の悲鳴が響いた。
「プゴォッ避けんなあぁあ!!!」
「避けなければ痛いだろ」
「くそ、豚野郎が!!」
との叫び声が聞こえ。よろけながらエリザベスに近付き、ホークは黒い瞳をうるうると潤ませ器用に前足で抱き付いた。
「うっ…ううっ……エリザベスちゃあ〜ん、頭痛い」
よく見れば頭が赤く腫れ上がっている。
エリザベスは一瞬困った表情をしたが、優しい声音でそっとホークが怪我した所に触れた。
「よしよし。痛いの痛いの、とんでけ〜」
「……うん、今ので治った気がする」
と言った矢先、ピュッと頭から血が飛び出た。
「キャアア!!ホークちゃん血が!」
「……………」
なんだこの茶番。と、ルノアールのジト目が肌を刺すほどエリザベスに突き刺さり、振り返り様 えへへ と顔を少し引き攣らせ笑った。
とくにこれと言った反応をせず――というか、元々目付きが鋭いせいか無表情というより怒っているように見えた。
ルノアールは灰色に覆われた空を見上げた。唇が微かに動く。読み取れなかったし聞き取りも出来なかったが、数秒もしないうちに空から目線を落とした。
「あの、ごめんなさい、勝手な真似をして……」
不意に、落ち込んだエリザベスの声し。
気付いたルノアールは ん?と首を傾けた。
「…怒ってます、よね。でも、関係ない人が傷付くの見て見ぬふりなんて、私、出来なかったんです」
「いいんじゃない」
「え……?」
「王女は王女の考え方があるんだ。……俺には理解し難いけど」
マフラーで口を隠し、二人から背を向け歩き出す。
「後、ずっと雨にあたってると風邪引くぞ。王女様に何かあったら、叱られるのはこっちなんだ」
と、嫌みにも聞こえたが、遠回しに気遣っているんだと思った。この人はただ不器用で素直になれないだけ。ルノアールとは初めて会って数時間も経っていないし、怖い所も、エリザベスが知らない事なんてたくさんある。
でも、これだけは胸を張って言えるのは何故だろう。
「そうですね!ホークちゃん行こっ」
「だな。ってあの野郎、歩くの早えーな」
――……それがルノアールという人柄で、しかしとても魅力的な女性(ひと)であることを。
401人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ