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(人1)side
退院した夜、私は玄関へと繋がる庭の椅子に腰掛けて、(人2)が帰って来るのを待っていた。
1億円もの大金を勝手に引き出して使おうなんて、絶対に許さない。
(人2)が知り合いの男を使って私を 殺 そ う としたこと。
その対価として1億円を渡したこと。
それらの証拠を何としてでも掴んで、(人2)も航もこの家から追い出してあげる。
事あるごとに(人2)は「この子は貴女の弟なのよ」なんて口にするけれど。
私はあの子のことを弟だなんて思ったことはない。
「あら、もう退院したの?安静にしていた方がいいって、お医者さんも言っていたのに」
自らの立場を脅かす存在になり得る男の子のことに思いを巡らせていると、いつの間にか帰宅していた(人2)が私に向かってそう言った。
まるで私のことを心配しているかのような口振りだけれど、それが本心ではないことぐらい考えずとも分かった。
「もう元気になったので退院したんです。長く家を離れていると、いつ何が起こるか分からないですから」
「それはどういう意味かしら」
「私、知ってるんです。貴女が知り合いの男を使って私を 殺 そ う としたこと。会社から引き出した1億円はその対価として、あの男に渡して来たんでしょ」
少しでも顔色が変わったなら、そこを一気に攻めるつもりだった。
しかし、予想に反して彼女の顔色は変わらず、むしろ どこか不敵な笑みを浮かべているように見える。
「違うわ。あの男に脅されたのよ。(人1)が昔、 薬 物 所 持 で捕まった事実を突きつけられたの。そんなこと、株主たちに知られたら大騒ぎになるでしょ」
それは私がまだ高校生だった頃。
留学先であるアメリカで、日本人の彼氏がいた。
彼はとある企業の御曹司で、うちの会社とも親交があった。
優しくて頭のいい彼は私にとって自慢の彼氏で、心から愛していたように思う。
そんな彼が 薬 物 所 持 で捕まりそうになった時、私にこう言ったのだ。
“この 薬 物 は(人1)が持っていたことにしてくれ。お前はまだ未成年だし 初 犯 だから執行猶予がつく。この罪を被ってくれたら、(人1)の会社に支援するように 俺から親父に頼むから”
「引き出した1億円は、あの男が事実を広めないようにする為よ。事態が落ち着いたら、貴女に利子も含めて返してもらうつもりだった」
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時