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(人1)side
ノックをして病室に入ってきた勝利は、チキンを頬張りながら資料に目を通す私に呆れたような視線を向けた。
「数日は安静にするように言われているのに。いいんですか、そんなもの食べて」
「病院食なんか食べてたら、余計に気が滅入るでしょ。チキンを食べたいって思うぐらい食欲があるんだから、もう大丈夫よ」
勝利はうちの会社の顧問弁護士であり、私の秘書の1人でもある。
誠実で仕事が出来る彼に、社長である父も信頼を寄せているようだ。
歳は彼の方が1つ上だし、もう付き合いも長いからフラットな関係性を築きたいのだけれど。
やはり根が真面目な彼は、会社の理事である私に堅い姿勢を保っている。
「聞いたわよ。機内で私の処置をした人、医者じゃないんでしょ?怖いわよね、素人に処置されただなんて」
「でも、彼の判断と処置が的確だったおかげで、(人1)さんは今こうやって元気にチキンを頬張っているんですよ」
「そんなの単なる偶然よ。一歩間違えれば、私は死んでいたかもしれない」
小さい頃から、父は私に厳しかった。
社長令嬢として恥ずかしくない振る舞いだけではなく、勉強もスポーツも常に1番を求められたし、泣いた時には「泣く暇があるなら前を向いて、次に何をすべきか考えろ」と怒られた。
「社長が心配していましたよ。(人1)さんはいつも無理ばっかりして突き進むから」
「父が私の心配を?珍しいこともあるのね。私はただ、何事も死ぬ気でやれっていう父の教えに忠実なだけよ」
6年前、父は私とそれほど歳の変わらない愛人を作って、その愛人は母を追い出した。
そして父と結婚して、航(わたる)という男の子まで産んだのだ。
「(人2)って女は、本当に恐ろしいわ。20代で父ほどの男の愛人になって、後継ぎになり得る男の子を産んだだけでも前代未聞なのに」
「他にも何か?」
「勝利だって知ってるでしょ?私の処置をした男と(人2)は、どうやら知り合いだったみたいなの。しかも、(人2)は今日になって会社から1億円も引き出しているのよ?」
そう言って明細を勝利に見せると、彼は表情を変えることなく曖昧に頷いてみせた。
「あの女、私を 殺 す つもりだったのよ。このお金はその対価。きっと今から男に会うつもりよ?」
「まさか、」
「あの女の化けの皮、絶対に私が剥いでやるんだから」
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時