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風磨side
「実の娘ではありません。_____夫の娘、です」
処置をしていた手が止まった。
全く面会に来なくなった(人2)さんが、どこかの社長の後妻になったという話は、以前からずっと聡に聞かされていた。
けれど、俺はそれを信じられなかったし、信じる気すら無かった。
例え周囲が何と言おうと、ずっと彼女のことだけを想っていたのに。
「ママ…」
そんな時、小さな男の子の声がした。
(人2)さんはその声に反応すると、すぐに歩み寄って優しく頭を撫でる。
「お姉ちゃんが倒れたの。だから静かにしていようね」
「おねーちゃん、だいじょうぶ?」
「大丈夫よ。今、お医者さんも来てくれたから」
まだ4歳ぐらいであろう その男の子は、間違いなく(人2)さんの実の息子、なのだと思う。
俺は何が何だか分からなくて、というよりも、理解したくなくて。
乱れる心のまま、処置を再開し終わらせた。
「脈拍も呼吸も安定してきました。後は、空港に着いたらすぐに救急搬送して下さい」
動揺していることを悟られたくない俺は、淡々とそう告げて立ち上がった。
あの日の(人2)さんのように、一度も振り返ることなくその場を立ち去る。
.
どうやって自分の席に戻ったのか、どうやって飛行機を降りたのかも、よく覚えていない。
気付けば聡と2人、タクシーに乗っていた。
「………どうかした?倒れた人の処置、上手くいったんでしょ?」
「なぁ、聡______」
「ん?」
「……(人2)さん、今どうしてる?」
あまり触れてこなかった名前を口にした俺に、聡は少し驚いたような表情を見せる。
返ってくる答えは、もう分かっているのに。
何度も聞かされた、あの答えしか無いというのに。
どうして俺は、こんな質問をしてしまったのだろうか。
「珍しいね、風磨が(人2)さんのこと聞いてくるなんて。やっぱり何かあったんでしょ」
「………(人1)って女性知ってる?歳は多分、俺らと同じぐらい。どっかの会社の社長令嬢っぽいんだけど」
僅かだけれど、(人1)という名前に聡が反応した。
それは、つまり_______
「………聡が言ってたこと、全部事実だったんだな」
悲惨な家庭で育った彼女にとって、記者になる夢こそが生きる理由だった。
だから、壊すことなく大切にしたかったのに。
「俺は一体、何を守りたかったんだろうな……」
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時