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*8* ページ8

風磨side






「実の娘ではありません。_____夫の娘、です」






処置をしていた手が止まった。



全く面会に来なくなった(人2)さんが、どこかの社長の後妻になったという話は、以前からずっと聡に聞かされていた。


けれど、俺はそれを信じられなかったし、信じる気すら無かった。



例え周囲が何と言おうと、ずっと彼女のことだけを想っていたのに。






「ママ…」





そんな時、小さな男の子の声がした。


(人2)さんはその声に反応すると、すぐに歩み寄って優しく頭を撫でる。






「お姉ちゃんが倒れたの。だから静かにしていようね」


「おねーちゃん、だいじょうぶ?」


「大丈夫よ。今、お医者さんも来てくれたから」





まだ4歳ぐらいであろう その男の子は、間違いなく(人2)さんの実の息子、なのだと思う。




俺は何が何だか分からなくて、というよりも、理解したくなくて。


乱れる心のまま、処置を再開し終わらせた。






「脈拍も呼吸も安定してきました。後は、空港に着いたらすぐに救急搬送して下さい」






動揺していることを悟られたくない俺は、淡々とそう告げて立ち上がった。



あの日の(人2)さんのように、一度も振り返ることなくその場を立ち去る。





.





どうやって自分の席に戻ったのか、どうやって飛行機を降りたのかも、よく覚えていない。



気付けば聡と2人、タクシーに乗っていた。






「………どうかした?倒れた人の処置、上手くいったんでしょ?」


「なぁ、聡______」


「ん?」


「……(人2)さん、今どうしてる?」






あまり触れてこなかった名前を口にした俺に、聡は少し驚いたような表情を見せる。




返ってくる答えは、もう分かっているのに。


何度も聞かされた、あの答えしか無いというのに。




どうして俺は、こんな質問をしてしまったのだろうか。






「珍しいね、風磨が(人2)さんのこと聞いてくるなんて。やっぱり何かあったんでしょ」


「………(人1)って女性知ってる?歳は多分、俺らと同じぐらい。どっかの会社の社長令嬢っぽいんだけど」






僅かだけれど、(人1)という名前に聡が反応した。




それは、つまり_______






「………聡が言ってたこと、全部事実だったんだな」






悲惨な家庭で育った彼女にとって、記者になる夢こそが生きる理由だった。


だから、壊すことなく大切にしたかったのに。






「俺は一体、何を守りたかったんだろうな……」






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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時

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